(2/3)人はなぜ会社をやめるのか|「大退職時代(The great resignation)」から見えてくる理由
最終更新日:2024年5月23日
第1回では、アメリカでの大退職時代の現状について分析しました。
本記事では、前回に引き続き「大退職時代」について、国内の現状を分析しながら、そこから考えられる原因やアメリカの現状との相違点についても触れていきます。
国内における退職者数の現状と分析
ここでは、日本国内における現在の退職者数の状況を分析していきます。
退職者数推移<全体数>
左図から、日本では、経済回復が未だ道のりの途中であることがわかります。それに伴い、実際の転職者数も低迷しています。欧米と比較すると、ダイナミックさはあまり感じられません。
その一方で、右図から、転職希望者は米国と同様に2020~2021年にかけて増加ペースが早まっていることがわかります。
今後、日本にも大退職時代が到来する可能性は十分にあると考えられるでしょう。
転職率ランキング<地域別>
ここでは、2022年8月現在の最新情報である、上図の都道府県別転職率ランキングを分析します。
上記の結果から、転職率の高さと生産年齢人口増減率や非正規労働者数は正の関係にあることがわかります。
また、比較的に転職率が高い沖縄県や宮城県(上図でオレンジ色に色付けされている部分)では生産年齢が増加しており、非正規労働者も多い傾向にあります。ここから、働き盛り世代が非正規雇用として流入していると考えられます。
入職率・離職率<職業別>
米国と同じくサービス業の離職率が目立ちます。
サービス業は、コロナ禍の自粛要請期間やロックダウン中において、日本でも米国でも営業時間短縮や閉店など最も影響を受けた産業です。よって、より安定した生活を求めて転職する傾向にあると考えられるでしょう。
一方で、事務職の離職も多く見受けられます。
入職率・離職率<性別>
米国と同様に、国内でも女性の離職率の方が平均して高い傾向にあります。
一方で、男女ともに、それ以前まで増加傾向にあった離職率が、大退職時代と呼ばれる2020~2021年度にかけては減少しています。
コロナ禍による経済的不安が原因として考えられるでしょう。
入職率・転職率<年齢別>
離職者率と同様に20代~60代まで女性の方が転職後の入職率が高いことが読み取れますが、19歳以下と60歳以上では男性の方が高くなっています。
また、10代後半から20代にかけての転入職率が最も高く、その後は減少する傾向にあります。新卒者が入社後数年で退職し、他社に再入職するケースが多いことが考えられます。
国内の離職者が挙げている主な離職理由
ここでは、国内において最も多く見受けられる新卒離職者(ここでは、大卒新入社員のうち3年以内に離職した者とする)とそれ以外の年齢での離職者に分けて、その理由を分析しています。
離職者があげる主な離職理由(性別・年代別)は以下の通りです。
上記より、新卒離職者の三大理由は以下であるといえます。
①存在承認
職場において自分の存在が認められていると感じられなかった場合、離職に移るケースがあります。
②貢献実感
職場・社会・顧客に貢献できていると感じられなかった場合、離職に移るケースがあります。
③成長予感
現職を続ける上で、将来のなりたい自分になれる予感がしなかった場合、離職に移るケースがあります。
上図は、私たちが作成した入社後1年から3年以内の離職が多い企業においてよく見られる傾向フローです。
国内で前々から問題視されている少子高齢化や、新型コロナウイルス関連の制限解除と共に会社の業績が回復の傾向にあることを理由に、国内の企業側の人材不足が深刻化しています。
また、それを根本原因として応募者を増やしたいがあまりに、採用側が発信する情報、特にネガティブな情報共有が明確に行われない場合があります。
よって、求職者とのニーズにミスマッチが生じ、入社後に仕事内容に不満を感じたり、組織風土が合わなかったりしたことを理由に離職する新卒離職者が多く見られます。さらに、これが企業側の人手不足を悪化させ、悪循環に陥っていることが考えられるでしょう。
新入社員の早期退職数の増加は、採用・教育コストの増加や企業イメージの低下に直接影響を与えるため、企業側が最も留意するべき問題です。
20~50代離職者の三大離職理由は以下の通りです。
①人間関係
パワハラやセクハラなど同僚や上司からの嫌がらせがあった場合、離職に移るケースがあります。
②給与
給与の低さや業績に見合った給与がもらえない場合、離職に移るケースがあります。
③社内風土
社風や組織文化と本人が一致しない場合、離職に移るケースがあります。
この中でも、人間関係は最も多い離職理由としてあげられます。
特に、上司や経営者など相手が自分よりも目上の人である場合、理不尽な理由であっても伝えにくく、ストレスが溜まって離職に繋がるケースが多々見られます。また、同僚や部下とのコミュニケーション不全も同じくストレスの要因となり離職するケースもあります。
給与が低いこと・昇給が見込めないといった賃金に関する問題は、新型コロナウイルス感染拡大以降により、重要視されています。一方で、これは主に男性や中年層(35歳~50歳)にのみ顕著に見られる傾向にあるといえます。
日本と米国における大退職時代の傾向の比較
まず、日本とアメリカにおける大退職時代の類似点として、以下の5点があげられます。
①転職等希望者数が、新型コロナ感染拡大以降の2020~2021年にかけて際立って増加しています。
②宿泊/飲食業、宿泊/ホスピタリティ業界などサービス業の離職率が最も高く見受けられます。
③若い世代と高齢労働者の離職率が増加しています。
④賃金や昇給に関わる問題が離職の主な理由として挙げられているものの、より良い報酬を貰えることだけが、離職を決断する絶対的要件ではないでしょう。
⑤ Well-being(幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態)にないことが、両国においても離職を考える上で、非常に重要な原因になり得るといえます。
次に、日本とアメリカにおける大退職時代の相違点について、以下の3点があげられます。
①実際の、新型コロナウイルス感染拡大後の転職者数は欧米ほど増えていません。
②米国では大退職時代において、女性の離職者率の方が男性を上回っていた一方で、国内では女性の離職者率が減少の傾向にあります。
③大退職時代において、米国では給料など収入の少なさよりもBurnout(燃え尽き症候群)が離職を考える重要な理由として考えられています。一方、国内のある一定層の労働者は、より良い報酬や労働条件を離職を考える重要な理由として考える傾向にあります。
第3回の記事では、私たちの考える大退職時代に関する今後の予測とそれに対して企業が取ることのできる対策を、実例を紹介しつつ考察していきたいと思います。
第3回はこちら
参考文献
- 第一生命経済研究所「コロナ危機下の転職の動向~減る転職者数・増える転職希望者数~」https://www.dlri.co.jp/report/macro/155140.html
- 都道府県別転職率「都道府県別統計とランキングで見る県民性」 https://todo-ran.com/t/kiji/23063
- 松木 謙介「【2021年最新版】新卒の離職率は?業界別の離職理由とその対策について事例を交えてわかりやすく解説!」 https://media.shouin.io/new-employee-turnover-rate
- 厚生労働省「令和3年上半期雇用動向調査結果の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-1/dl/gaikyou.pdf
- KAILABO「新入社員が早期離職する3つの理由と5つの対策」https://kailabo.com/soukirisyoku/7097/
- MONOist「転職理由ランキング、1位は「給与が低い・昇給が見込めない」」https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2203/24/news052.html
- 厚生労働省 「令和2年雇用動向調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/index.html