#平成最後の夏だった
見覚えのないボディミスト。当たり前のように置いてあるクレンジング。買ってないのに増えていく、アイシャドウとファンデーション。
最初からわかっていた。
見ないようにすることが、一番幸せになれる方法だと思った。
この香りを纏ってあの人に抱きしめられながら、眠りにつく女の子がいる。信じたくもないのに、突きつけられる現実。
じゃあ全部上書きしちゃおうって、ソファーにも、ベッドにも、毎日のようにわたしの好きな香水を振った。
最後に家を出た日も、忘れないように、消えないように、香水がなくなるまで。ベッドの横に落ちてたぬいぐるみにも。
「好きだったよ」って言ったら「わかった」って言われた。あの人はそう応えるだろうって、本当はずっと前から知っていた。
気づきたくなかった。
傷つきたくなかった。
自分を守ることは、そんなに悪いこと?
ただまっすぐに誰かを好きになって、
ただひたむきに夢中になって、
一瞬でも愛されていた頃に縋って、
抜け出せなくなった。
2台目の携帯も、マッチングアプリも、全部全部見なかったことにした。また会いたいって言ったけど、きっともう会ってくれないだろう。
だってあの人にはもう、ほかの一番が出来てる。きっと。
好きだった?依存してた?
もしかしたら、どっちもかもしれない。
ただ、あの人といる時間だけは、あたたかくて、ぽかぽかしていて、すぐに眠たくなった。
その腕にしがみつきたくて、いつも隣に座った。あの感触が今でも忘れられない。
ちゃんと終わらせなかった人は、永遠に忘れられないってどこかで聞いたことがある。
あの人が仕事で家を出た後、ひとりでyonigeのワンルームを聴いていた。
寒い雪の日に出会ったのに、季節はいつのまにかじめじめとした暑い夏になっていた。
蝉の声が聞こえ始める頃。きっとわたしはまた、あの人のことを思い出してしまうんだろう。
大切にされていなくても、ただ、ただ、心から、好きだった人がいた。
平成最後の夏だった。
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