# 窓の外。春の風。海の匂い。
最近になって気付いたことだが、どうやら私は結構乗り物が好きらしい。
乗り物の中でも、飛行機とか高速バスとか新幹線とか船とか、自分が遠くまでいける乗り物が、特に良いみたいだった。
表現が「らしい」とか「みたい」とか推量になっているのは、自分ではそういうふうに自覚したことがなかったからだ。
プロフィールを書くときに「好きなもの」の欄に「乗り物」なんてこれまで書いたためしがなかったし、好きだからと言ってめちゃくちゃ知識があるかと言われれば、そこまで知識があるわけでもなかった。
ただただ乗り物に乗って移り変わる景色を見ながら遠くまで行くというのが、案外好きみたいだった。
私が案外乗り物を好きなのは、多分、父がそうだったからだと思う。
父が好きなものは、昔から私も好きだった。
太くて色が灰色のそばとか、にんにくをたくさん入れたラーメンとか、ゴジラとかお酒とか家族とか旅行とか。
例にも漏れず、乗り物も好きな娘に、私は育ちました。
そんな、異様に趣味の合う父は、2022年に他界した。
何の心の準備もできないまま父は他界して、突然ざっくりと負った心の傷がかさぶたになっていくまでに、沢山の時間を要した。
今は傷がかさぶたになったと思うけど、正直今後も傷跡は残るし、多分完全に癒えることはないと思う。
ただ時間が経つにつれ、今はもうそばにいない父との、ちょうどよい距離感を、なんとなく見つけられた気がした。
近くにはいないけど思い出話には沢山出てくるし、家に帰ればめちゃくちゃかっこいい遺影が迎えてくれるし、何か楽しいことをしていても「多分お父さんがいたらこう言うだろうな」って思うし、もう前みたいに突然泣いたりしなくても、だんだんと父を近くに感じられるようになってきていた。
そうやって父とちょうどよい距離感で日々を過ごしていたときに、どうしても実家の仙台に、船で帰ってみたいと思った。
片道19時間かけて。
それは父がその航路で、度々仙台に帰っていたからだ。
「フェリーで仙台帰る」というLINEを、幾度か目にしたことがあった。
父が見たものや体験したことを、私も見たいし体験してみたいと思った。
ちょっと前までは、とてもじゃないけどそういう気持ちにはなれなかったけど、父との距離感を上手に取れるようになってきたから、そう思えたんだと思う。
そんなこんなで、先日、満を持して船で仙台に帰った。
船に乗るのは、ダイビングで沖に出るときを除いて、長距離フェリーだけで考えると、2018年に小笠原諸島に行ったぶりだと思う。
小笠原諸島に向かう船「小笠原丸」は、控えめにいって尋常じゃないくらい揺れた。
その記憶から長距離フェリーはとてつもなく揺れるものだと思って覚悟していたが、蓋を開けてみると、とても穏やかな航海だった。
(心配だったから、一応アネロンは飲んでおいた。)
船が出港するギリギリまで、いや出港しても電波が入るところまで、オンラインで慌ただしく仕事をして、しばらくして電波が入らなくなった。
船の良いところの1つは、船の中だけの、特別な楽しみがあることなんじゃないかと思う。
電波が入らないし(最近だとWi-Fiサービスがついていることもあるけど)、進む速度は大体20ノット(時速40km前後)で時間がかかるので、船の中に独自のエンタメが用意されていて、別に好きなわけでもないものでもちょっと触れてみようかなと思ってしまったりする。
私が今回乗った船では、夜にラウンジでラウンジショーが行われたり、時代を感じるゲームセンターがあったり、全然見たことない俳優さんが出いている謎の映画がやっていたりした。
一応、全部チェックした。
見たことないぬいぐるみが入っているUFOキャッチャーをやろうと思ったが、500円かかるというのを見て、ギリギリで我に返ったのでやめておいた。
船の独自エンタメを満喫しつつ、度々デッキに出て、大海原の上で深呼吸した。
父もこうやって、船旅を楽しんだんだろうか。
船の中は不思議なもので、時間がゆっくり流れていた。
普段は何でもかんでも早くしないといけないと思って焦って生きているから、余計にそう感じたのかもしれない。
「感性を磨くのって大事だよね」というnoteを書いていたにも関わらず、かなりおろそかになっていることに気がついた。
自分がまた一回り、人として大きくなって、もっと守りたい人をしっかり守れるようになるためには、やはり感性を磨くことが必要だと改めて思ったし、生産性や効率ばかり気にしていると(もちろんそれらは大事であることに代わりはないけれど)、何か大切な部分を置いていってしまうこともあるのかなと、海を見ながらぼんやりと感じていた。
「かんじんなことは目に見えないんだよ」って星の王子さまに書いてあったよなあ。
目に見えないものを大切にできるように、また、何かしら乗り物に乗って、遠くまでいってみたいと思った。
父がそうしてたみたいに。
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