第18話 職務拡大
前回は「職務充実(job enrichment)」を取り上げました。
今回は「職務拡大(job enlargement)」です。
職務拡大は担当できる仕事の幅=範囲、種類を広げていくことです。
例えば人事部の採用担当の場合、
募集業務を行っている人が新入社員の受け入れ業務も行うなど、
採用業務の中で仕事の幅を広げれば職務拡大になります。
人事部門には採用以外にも配置、育成、労務等、
さまざまな機能・業務がありますので、
採用担当が育成担当になるような分担変更も職務拡大です。
さて、職務拡大には次のようなメリットがあります。
(1)成長の実感
職務拡大によって習熟した仕事が増えると
自身の成長を実感できるようになります。
“自分が担当できる仕事をリストアップして下さい”
と問われた場合、
幅広い経験があると当然リストの項目が多くなります。
その数が成長の証となるからです。
(2)マンネリの防止
同じ仕事を長く担当し続けるのはマイナスです。
マンネリに陥り、新たな学びがなくなります。
苦手な業務を続けている場合は
モティベーションの低下にもつながります。
職務拡大は上手に活かせば良い刺激になるのです。
(3)適性の発見
さまざまな仕事を経験していると
”自分に何が向いているか”
を知る契機になります。
興味を感じない仕事でも
”実際にやってみたら面白さに気づいた”
ということは少なくありません。
自分の新たな可能性を広げる意味でも
職務拡大は重要です。
(4)連携の強化
職務拡大に多くの仕事を経験している人が多いと
相互理解、状況共有が容易になり、
連携しやすくなります。
(5)分担の機動性向上
退職や病欠、トラブル対応等、
その業務を担当している人が不足した場合に
少しでも経験のある人がいれば
分担変更や応援等が容易になります。
多くの企業では
できるだけ人員効率を上げたいと思っていますので
高度な専門性が必要な仕事以外では
「マルチジョブ化=多くのことをこなせる人材の育成」
を進めようとします。
職務拡大は人員の効率的な配置にも有益なのです。
以上のように職務拡大にはメリットがありますが、
実際に推進する場合には課題もいくつかあります。
第一に、
担当する業務が増えるということは
それだけ新たに覚える仕事が増えるわけで
本人の業務負荷につながることです。
「自分は今の担当業務で満足しているのに
なぜ別の仕事をまた覚える必要があるのか?」
「せっかく今の仕事に慣れてきたのに、
また新しい仕事を覚えなければならないのか!」
という不満や違和感が出るケースはよくあります。
人事異動が頻繁な会社では発生しやすいですね。
第二に
「仕事によって報酬が決まる」
という人事制度の場合、
安易に職務拡大を進めると
“報酬が変わらないのになぜ違う業務を習得する必要があるのか?”
“これは自分のジョブではない”
という疑問や不満が生じることです。
労働契約上、妥当性のある業務命令には従うわけですが、
納得のいかない業務分担変更は
本人の意欲の面でも悪影響です。
・なぜその仕事を担当するのか、
・なぜ今なのか、
・どういう期待や本人へのメリットがあるか、
など、丁寧な説明が大切です。
以上のように「職務拡大」は、
各人の人材育成の観点からとらえるだけではなく、
・組織力の強化
・人材の総合的な有効活用
・仕事と報酬のあり方(=人事制度の運用)
・モティベーションの向上
など、経営課題的な観点を忘れずに
適切に運用していく必要があると言えます。
皆さんの会社では職務拡大はどのように行われているでしょうか?
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