第6話 君しかいない!
人材育成について、ちょっと立ち止まって考えたことを紹介しています。
これまでのコンサルティング活動の中で考え、クライアントに紹介し、議論してきたことです。
「10年ひと昔」という言葉がありますが、今は時代の変化が速く、大きく、3年から5年もすれば、もう昔のような感覚ですね。
そういう意味では、Stop and Think人材育成 で取り上げている話は、ほとんど「昔話」と言えます。
とは言え、昔の話にも、今に通じる何か、不変的な何かが混じっていることもあろうかと思います。
ある会社で10年ほど新任リーダー研修を行っていた時期がありました。
20年ほど前の話です。
毎年の受講者数は200名ほどで、7~8回に分けて実施していました。
数年経った頃、何気なく次の質問を受講生に出しました。
皆さんの中で、上司に何か依頼されて
「君しかいない!(だから頼むよ!)
と言われた経験のある人はいますか?
数名の受講生が手を挙げました。
その時の気持ちを伺うと、皆さん
「期待されていることが分かり、やる気になった。」
と答えていました。
私自身もそうですが、大体の人は期待されることが嬉しく、やる気になることが多いものですね。
それから、毎年この質問をすることにしました。
手を挙げる人は毎回3人から8人ぐらいの間でした。
全受講生200人のうち、毎年15人~20人ぐらいが手を挙げていました。
それから5年ぐらい経った時でした。
休憩時間に一人の受講生が私のところに来ました。
受講生 : 先生、ちょっといいですか。
私 : どうしたの?
受講生 : 「君しかいない!」ですが、自分は3年連続で言われました。
今年は、実はカチンときました。
でも、自分の後ろを見ると、確かに誰もいなくて、いつも自分
がやるしかないんです。
おかしいです。
私は一瞬、息がつまりました。
企業はコスト低減もあり、人員を絞ります。
世代ごとの人員数にもばらつきがあります。
その結果、自分の後輩がいない、育っていない等の理由で、何か課題に取り組む必要が出てくると、いつも「自分の出番」になるわけですね。
これが繰り返されると、
「君しかいない!」は期待メッセージではなく、
本当に自分しかいない!という人員体制の問題をただ確認するだけの
冷たいコミュニケーションになってしまいます。
「君しかいない!」は、
何とか<あなたに>にやって欲しいときの「殺し文句」ですね。
しかし、めったな時でないと言わないから殺し文句なのであって、
多用しては気持ちを引き付けることはできません。
教訓:殺し文句は、ここぞという時に、厳選して使うべし
です。
それに、
期待に応えようと頑張ってききた自覚のある人は分かると思いますが、
期待されることは嬉しい反面、大きな圧力でもあります。
極端に言えば、
誰かの期待は、時には暴力である。
と思います。
期待は人の成長の大きな影響要因となります。
私もコンサルタントとして成長する過程で、先輩の
「クライアントの期待にしっかり応える、そうすれば期待が大きくなる、
その期待にまた応えようとしていく中で成長できる。」
という助言を心に置いて取り組み、
クライアントに育てていただいたと自覚しています。
が、期待はその功罪をよく知って、
状況に応じて冷静に使いこなすことも大切と思います。
皆さんは「期待」について、どう思われますか?
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