
過去日記008:期待と失望:ランチタイムの感情とマユミの小さな優しさ
デスクの模様替えで気づいたマユミの小さな優しさ
オフィスの席替え初日。
右隣の席に座る、よく喋るオジサンが今日は妙に静かだ。
理由は簡単。目の前にマユミが座っているからだろう。彼女は無意識に場の空気をピリッと引き締める特技を持っている。いや、本人はきっと気づいていないだろうけど。
僕はというと、そんな空気の中、淡々と仕事をこなしていた。オジサンが静かなだけで、作業効率が2割増しになる気がする。
昼休みを挟み、休憩から戻った僕は、ついでにデスク周りを軽く拭いていた。すると、マユミが戻ってきたタイミングで彼女の「小さな儀式」が始まる。SくんやHさん、そしてIくんにスプライトを紙コップで配り始めたのだ。
「いいなあ」と心のどこかで期待していた。
でも、ボクには何もなかった。
『まぁ、こんなもんだ』と自分に言い聞かせ、気にしないふりをしていると、後ろからマユミの明るい声が響く。
「アタシの手酌は高いよ~、1杯550円だからね~!」
冗談交じりのその声に、Iくんが「え~!」と驚くと、周囲の笑い声が重なった。
その瞬間、ふと目に入ったのは、彼女のデスクに置かれたコーラの缶。輝いて見えるのは、きっと気のせいだ。
けれど、気のせいだと片付けるには、少しだけ眩しかった。
「ヒロはコーラね」
マユミが振り返りざま、そんなふうに軽口を叩く。驚きと嬉しさが胸のどこかで小さく跳ねたのを隠すため、ボクは冗談っぽく言った。
「紙コップ、無いよ~」

それを聞いたマユミの表情がくるりと変わる。「あーもう!」と小さく肩をすくめたあと、勢いよく立ち上がり、紙コップを取りに行ってくれた。
その足音のリズムが軽快すぎて、ちょっとだけ申し訳なくなる。いや、それ以上に、彼女のその行動に胸が妙な鼓動を刻むのだ。
戻ってきた彼女は無言で紙コップにコーラを注ぎ、ボクに差し出した。
「ありがとう」
その言葉が自然と口から出た瞬間、彼女はボクの目をまっすぐに見て、ほんの少しだけ笑った。やり過ごすには温かすぎる、けれど言葉を足すには特別すぎる笑顔だった。
コーラを飲むと、心地よい炭酸が口の中で小さな花火のように弾けた。
ずいぶん前に、「コーラが好き」と何気なく話しただけなのに、彼女はそれを覚えていた。普通なら忘れてしまうだろう些細な言葉を。
結局、この午後、コーラを飲んでいたのはボクとマユミだけだった。オフィスの風景は相変わらず平凡そのものだったけれど、ボクの中ではそれとは真逆の、少し甘酸っぱい特別な時間が流れていた。
マユミがくれたのは、ただのコーラじゃない。ほんの小さな気遣い、けれどそれがボクの心を優しくくすぐってくる。それがまたたまらない。
ボクをただよろこばせるためだけに動いてくれる彼女の姿が、頭の中でリピートされる。
「マユミって、やっぱりすごいな」と心の中で呟いた途端、その特別なひとときにまた胸が軽く弾んだ。
彼女のさりげない優しさが、落ち込んでいたボクの気分をそっと掬い上げ、ドキドキとワクワクを置いていく――そんな午後だった。
コメント
ピャルヽ(´・ω・`):またもや 幸せダネ〜ヒロさんは。
ボク:ピャルちゃん、時々だけどね。 時々だからうれしさ倍増かな。
トモ:2人だけの世界味わってマスね…ウフフ
ボク:トモさん、最初はボクには無いかと思っちゃって、ガッカリしてたら、うれしい事が待ってたんだよね。 良かった。
あおい:素敵な日記に出会えました これから さかのぼって ボチボチ 読ませてもらいますね。
ボク:あおいさん、早速コメントありがとうございます。 ボクとマユミとの、ちょっぴり恥ずかしいおのろけ日記です。 これから、ヨロシクお願いします。
あわせて読みたい
いいなと思ったら応援しよう!
