6歳6ヶ月の次女の歯が抜けた話
シルバーウィークの連休も終盤となった9月25日、次女の歯が初めて抜けた。
9月24日深夜…正確には9月25日1時ごろだったように思う。珍しく夜中に起きてきた次女が、これまた珍しく居間でうたた寝していた私を起こした。
今思うと、すでに事件は起こった後だったのだろう。
「お母さん、一緒に寝よ」
言われるがままに、私は次女を寝室に行き、私の布団で気持ちよさそうに再び眠った。
翌朝。
子ども部屋の布団を畳んでいた夫が「痛っ!」と叫び声をあげた。
ダイニングで子供たちと朝食を食べていた私に向かって、ドスドスと足音を立てて走ってきたのだ。
夫の手には、乳歯だと思われる白い物体。
「これ、誰の?」
まず、現在生え変わり期で、最近また1本ぐらぐらしているという長女の顔を見た。
長女は違うし!と言いたげな顔をして、歯を見せた。
ぐらぐらしているらしき歯は抜けていない。
「まさか……」
夫と私は次女の顔を見る。
すると次女は、ニカーッとすき間の開いた口で笑顔を見せた。
「夜中にな……口の中に石みたいなのが入ってたから、気持ち悪くて起きちゃってん。飲み込んだらアカンと思って、口から出して枕の横に置いといてん!」
と、飲み込まなかった私は偉い!とドヤ顔で顛末を語る次女。
ぐらぐらしている様子もなかったのに、一晩で歯が抜けたのだ。
歯並びの悪い次女の乳歯は、隣の歯が邪魔をして、ぐらぐらする余裕すらなかったのだろう。
突然、夜中に抜けて布団に置き去りにされた乳歯は、夫に踏まれて存在感をアピールしたという訳だ。
実は次女は3月生まれ、低体重に加え、先天性心疾患、肺高血圧症などがあり、生後半年になる直前に手術を受けている。心臓や肺が悪かったことで哺乳不良の状態が長く、それが原因かどうか定かではないが、筋緊張低下、運動発達遅滞なども発覚し、なかなか心配事の多い子だった。
今でこそ小柄で、運動発達は年齢相当に追いついてないものの、元気に小学校へ通う口の達者な1年生だ。
本人の一番の悩みが「歯が抜けたことがない」という、生え変わった歯の本数がマウントにされがちな小学校低学年らしいものなのは、微笑ましい。
6年と10日ほど前、心臓の手術で生死の境をさまよったときに、人工呼吸器を装着された口の中で、唯一生えようと頑張っていたのが今回抜けた歯なのだ。
そういえば、生えてきたときから歪んでたっけなぁ……と思い出して、感慨深い気持ちになった。
そんな9月25日は手術から生還し、退院した記念日。
次女をともに頑張ってきた乳歯は、その役目を終えたのだ。
乳歯よ、ありがとう。
石だと思って、ペッと出した次女に代わって私がお礼を言っておこう。
そして、永久歯が生えるにはあまりにも小さいそのすき間を眺めながら、
「歯の矯正代ってどれくらいするんやろな……」
と、ため息をつきつつ、夫と私の休日の朝は過ぎていった。