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女性活用というやや食傷気味な取り組みの現状と今後

 日本企業における「女性活用」の現状と課題:多様性を活かすための転換点

1. はじめに

日本の女性の社会進出に関して、いまだに課題が山積していることは広く知られています。国際労働機関(ILO)の2018年報告書によると、世界の管理職に占める女性の割合は27.1%ですが、日本はその半分以下の12%で、G7の中で最も低い結果となっています。また、世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数2021」でも、日本は156カ国中120位にランクインし、G7では最下位という衝撃的なデータが示されています。さらに、大手企業の役員に占める女性の割合はわずか3.4%で、フランスの37%、アメリカの16.4%と比べても圧倒的に低いのが現状です。この状況を打破するためには何が必要なのでしょうか?

日本企業における女性活用の問題は、単なるジェンダー平等の観点だけでなく、企業の競争力や持続可能性に直結する重要な課題であるといえます。特に少子高齢化が進行する中で、女性の労働市場への参画がもたらすポテンシャルは非常に大きいにもかかわらず、依然としてその可能性を十分に活かせていないのが現状です。この記事では、日本企業における女性活用の現状を分析し、今後どのような施策が求められるのかについて考察します。

2. 日本企業における女性活用の現状

日本の企業では、これまで「女性活用」が少子高齢化やSDGs(持続可能な開発目標)、女性活躍推進法の影響を受けてようやく注目を集めるようになりました。しかし、多くの企業においてその取り組みは表面的であり、実際に女性がリーダーシップを発揮する場面は依然として限られています。たとえば、2019年に行われた「働く女性2000人調査」によると、60%近くの女性が、企業による女性活用施策に対してあまり効果を感じていないと答えています。この結果は、企業の女性活用の取り組みがまだまだ「形だけ」のものにとどまっていることを示唆しています。

その背景には、いくつかの要因が存在しています。まず第一に、日本企業の多くは「女性活用」を単なる法令遵守や社会的責任として捉えており、事業の成長や競争力向上のための戦略的要素として認識していないことが挙げられます。例えば、生産年齢人口が減少しているという現実に直面しているものの、都市部の大企業ではその実感が薄く、「SDGsへの取り組み」や「女性活躍推進法の遵守」が「ゲームルールとしての義務」にすぎないと考える経営者も多いのです。

また、企業文化としても、「同質性」を重視する風土が根強く残っており、これが女性活用を阻む大きな障壁となっています。かつては「家庭も仕事も会社の傘の下で一致団結して成果を出す」という同質的な働き方が理想とされ、その価値観が強調されてきました。この考え方が未だに強く残っている限り、女性が家庭と仕事を両立させるためのサポートや多様なキャリアパスの選択肢は十分に提供されないままです。

3. 女性活用のための転換点:多様性を活かす企業文化の構築

日本企業が本気で「女性活用」に取り組み、事業継続や発展のためのファクターとして活用するためには、従来の価値観を打破し、柔軟で多様性を重視した企業文化に変革していく必要があります。具体的には以下のような取り組みが求められます。

3.1 ジョブ型雇用の推進

これまでの日本企業では、職務内容や役割に関わらず、年功序列や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型」の雇用制度が主流でした。しかし、女性のキャリアアップを支援するためには、業務に基づいた評価を行う「ジョブ型雇用」への転換が不可欠です。ジョブ型雇用では、職務内容が明確に定義され、能力や成果に基づく評価が行われるため、男女問わず公平にキャリアアップのチャンスが提供されます。このような雇用制度に移行することで、女性が自分のペースでキャリアを築ける環境を整えることができます。

3.2 アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の排除

無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)は、特に管理職や経営層において、女性に対する評価や期待に偏りが生じる原因となります。例えば、「女性は育児や家庭の都合で仕事を優先できない」といった偏見が、昇進やキャリアの機会を制限することがあります。企業は、これらの無意識の偏見を排除するための教育やトレーニングを積極的に実施し、管理職や経営者に対して女性の能力を正当に評価する意識改革を促進する必要があります。

3.3 心理的安全性の確保

社員が安心して自分の意見を述べたり、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作ることは、多様性を活かすための重要な要素です。特に女性社員は、自己表現を控えめにしがちな傾向があるため、上司や同僚との信頼関係を築くために心理的安全性が必要です。これを確保するためには、オープンで建設的なフィードバック文化や、社員同士が積極的に意見を交わす場を作ることが求められます。

3.4 セカンドシフトへの対策

多くの女性が抱える問題として「セカンドシフト」があります。これは、仕事が終わった後に家庭内での役割(子育てや家事など)を果たさなければならない状況を指します。このような負担が女性のキャリアに悪影響を及ぼすことを避けるためには、企業はフレックスタイム制度やテレワークなど、柔軟な働き方を提供する必要があります。また、男性社員にも育児休暇や家事休暇を取得しやすい環境を作ることで、男女問わず家庭と仕事を両立できる社会を実現することが重要です。

4. 世代交代とアンラーニングの必要性

これまでの日本企業は、家庭と仕事を一致団結して成果を出すという価値観を重視し、その枠組みの中で成功を収めてきました。しかし、今後の社会においては、そのような「同質性による成果創出」の考え方では限界があります。これを乗り越えるためには、企業経営層や管理層が「アンラーニング」を行い、世代交代を早急に進めることが求められます。特に、若い世代はより多様性を重視する価値観を持っており、企業はその変化を受け入れ、柔軟で多様な働き方を実現する必要があります。

5. 結論:女性活用をビジネスの成功因子に

女性の活用は、もはや社会的責任にとどまらず、ビジネスの成長や競争力向上に不可欠な要素です。日本企業が女性活用を事業継続や発展のためのファクターと認識し、真剣に取り組むためには、これまでの「同質性」重視の文化から脱却し、多様性を活かす企業文化を構築する必要があります。そのためには、ジョブ型雇用の推進、アンコンシャス・バイアスの排除、心理的安全性の確保、セカンドシフトへの対策など、包括的な施策が求められます。そして、経営層や管理職の意識改革、世代交代が進むことで、より多様で創造的な職場が実現され、女性活用が真の意味でビジネスの成功因子となるでしょう。

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