採用メディア「Gift」を作った理由。ていねい通販ブランド戦略の新たな一手【後編】
*この記事は、2020年1月時点のものです。
大阪市西区に本社を構える株式会社生活総合サービスは、「ていねい通販」というブランドのもと健康食品・化粧品等の通信販売業を行っている企業です。
リピートマーケティングの責任者、そして、採用責任者を兼務する戸田さんは、【Gift〜仕事という贈りもの〜】という自社採用メディアを立ち上げ、先取的で独自性のある採用広報を展開しています。
前編では、採用コンテンツメディアにおいて、「採用活動は企業活動の一環」「会社を物語(ストーリー)に落とし込んでいく」「1to1ではなく、意思決定を促す“空気づくり“こそ大切」「採用コンテンツメディアでは、母集団数は追わない方が良い」といったポイントをお伺いしました。
今回は、インタビューの後編をお届けします!(取材/編集:Keisuke Dojo)
辞退者を追うことより残る人に着目し、濃い応募者に育てることに注力する
道場:
採用広報メディアのコンテンツ設計は、選考フローの中で起きうることを予め想定してコンテンツを用意しているんですか?いかに採用選考の歩留まりを上げるかなど、フローの中で起きうる辞退理由を想定してネックを埋めるコンテンツを準備する、など考えるのですが。
戸田:
実はそこは、逆なんですよ。僕は「辞退者」よりも「残る人」に目を向けた方が良いと思っています。たとえば「エントリーシート提出率60%」とすると、多くの場合、何で離脱したのかを考えて辞退になった40%に注目すると思うんです。僕はそれよりも、残った60%がもっと濃い状態になることを意識することで、後の意思決定が深くなれば良いと思っています。最終選考に残る10人のためにやり続ける、そんな意識の方が良いと思います。
ちょっとずつ改善しようとするから中途半端になったり、数字を追い求めて価値観が合わない人にまで時間を使っていたりしていることがよくあるんですよ。どうやっても離れる人は離れていくので、その人たちにパワーをかけるのではなくて、最後に残る10人に何ができるのか。それを考えて、先にコンテンツを準備しておく、という発想で僕は取り組んでいます。
道場:
選考に残った人にこそ、自社の魅力付けのヒントがあると言うことですね。
戸田:
たとえば採用母集団に100人いて、歩留まり70人を90人に引き上げる施策を考えた場合、興味関心を「深める」ことより「きっかけ作り」に注力することになってしまいます。それを会社説明会で配る会社情報の冊子で例えると、中身の詰まった分厚い冊子よりも、薄いリーフレット1枚をオリジナルクリアファイルに入れて渡す方が気軽に見てもらえるってなると思うんです。でも、そうなると情報の深さを捨てているため、もともと興味のある人たちにとっては大した情報ではなくなってしまいます。
最初から分厚い冊子であっても、70人くらいが興味を持てなくて離れていったとしても、30人くらいがめっちゃ濃いファンになってくれた方が、極端な話、良いじゃないかって思うんですよね。だからこそ自分たちの価値観や思想にあったものをコンテンツとして用意しておくのが良いのではないかと考え、自社採用メディアを立ち上げたというのがあります。
自分たちの会社の本質的な価値を体現するモノを作り、マインドシェアを取る
道場:
採用市場の中では、まだまだ母集団形成の数を追求する姿勢も多い気がしています。
戸田:
今回のテーマを掘り下げて考えたときに「採用コンテンツメディアをやった方が良いかどうか」というよりも、自分たちの会社の価値観そのものを体現するモノをちゃんと作った方が良いということが、いちばん伝えたいことですね。PV(プレビュー)数を稼ぐと言った最大瞬間風速にこだわらずに、自分たちの会社のブランドを体現しているものを作ること。そこと紐づくからこそ、濃い出会いが生まれ、ブランドとして確立していきます。これが出来れば、取り組みに対する実行予算も採用予算を超えて持つことも可能となります。実際、弊社の採用活動の中には、ブランディング予算として社内決裁をしている施策もありますよ。
道場:
そうですよね。採用予算からの場合、単年予算主義が強く「採用単価いくら」となりがちなので、なかなか中長期施策に取り組みにくいといった背景をよく他社の人事の方からも伺うことが多いです。ちなみに、生活総合サービスさんでは、効果測定などで追いかけているKPI指標などはあるんですか?
戸田:
僕自身が新卒採用のKPI指標でずっと追いかけているのは、「前年より母集団数を減らせているか」ですね。これは僕が採用活動を通して「たくさん集める」ことに違和感を持つようになったことに起因します。会社に興味を持ってもらう人をいたずらに増やしても、採用できる人数が限られているわけですから、イコール不採用と告げる人を増やすことになる。ひとりひとりに向き合いたくてもリソースは限られているわけですから、人が多ければ多いほどそこも雑になる。誰のためにもならない訳です。
だからこそ、いかに出会うべく人と出会えるかが重要だと気付き、母集団を減らすことを一つの指標にすることにしました。もちろん、僕たちも以前は大手ナビサイトから母集団を2000人以上集めて、説明会に400-500名を呼んで、エントリーシートを提出してもらって、集団面接やって、4次選考を通して、内定!みたいなフローをしてきたのですが、今では初期の母集団を80名まで減らすことが出来ました。かなり濃い出会いを作ることが出来ているという体感もあるし、自社にマッチする人材を引き上げられていると思っています。自分たちのリソースは同じでも、一人の学生当たりにかけることが出来るリソースが増えていることが大きいですね。
道場:
そういった戸田さんの苦い経験もあっての目標なんですね。
戸田:
はい。もちろん、母集団を減らすということはリスクも背負いますし、かといって出会った学生たちに毎日LINEとかで連絡をするわけにはいかないので、自社採用メディアやTwitterで発信することで、自発的に自社の考えに触れてもらうことが出来れば、自然と志望度の醸成ができるという考えですね。母集団数を増やすという集客的な観点ではなく、出会った人たちとつながりを持ち続けるという点で価値があると思っているんですね。興味のない学生は見ないけど、興味がある人は追いかけてくれる。それがいちばん健全であり、価値があると思います。
Webは出会うべく人に出会うツールであり、つながり続けるためのもの
道場:
その考え方は、いまの一般の採用活動の流れで言うところの「インターンシップからどうやって本選考につなげる?」みたいな話ともリンクしてくると思うんですけど。新卒採用市場だったらインターンシップをやって、イベントを作って、呼んで、みたいな流れを設計してやるのが定石のようになっているんですが、僕はWebを活用すればいくらでもできるんじゃないか、って思ってるんですよね。あくまで早期認知・接触の手段の1つでしかないインターンシップにこだわる必要はなく、もっとWebを上手く使えば、時期にとらわれない柔軟な活動、効果的な認知を得る活動もできるのではないか、と思うんです。
戸田:
まさにそうですね。Webを有効活用した方が良いと思いますね。ただ誤解が多いのは、Webって「つながり続けるためのもの」であり、「出会うべく人と出会うためのもの」だと思うんですよ。昔はそれができなかったので、母集団の絶対数が必要だったわけですが、いまは、それは必要なくなったと思うんですよ。例えば、マッチングアプリがわかりやすい例です。アクセスできる人の情報は圧倒的に増えたとは思うのですが、実際に出会う人を減らすことになり、結果として付き合う人の数を増やすことが出来ている。Webは、人と人をうまくつなげることに特化したものであって、タクシーアプリひとつ取っても、価値を提供したい人と価値を受け取りたい人をなめらかに繋げるためのサービスですよね。無駄な母集団が要らなくなるというのが本来のWebの強みのはずです。このベースを理解することが大切なんです。
道場:
そうか…。戸田さんに言われて改めて思ったのですが、Webを使って「集めるもの」と思い込み過ぎているんですね。
戸田:
そう思いますね。ただ、Webはその分あまりにも無駄がないので、発見してもらうことが困難である一面もあります。Amazonで本を買う場合と書店で買う場合の違いが分かりやすいかと思います。書店の場合は、欲しい本があったとしても見つけるまでに時間が掛かって店内を歩き回る中で他にも気になる本が見つかるってことがよくある話だと思います。その点、Amazonで購入となれば、すぐ欲しい本にたどり着いて即購入。予期せぬ出会いが圧倒的に少ないんですよね。このWebにおいて求職者に会社を見つけてもらうことは、無名の会社からすると不利と言えるんですよね。
ただし、時代は「検索」から「探索」に移行しつつあります。最近の求職者は、検索キーワードや関心のあるカテゴリーも持たずにプラットフォームを回遊します。もちろん、そこでも大手企業を中心とした名の通った強者たちが有利であるものの入り込むスキはあります。そこで自分たちのターゲットがどんな行動をしているかの仮説を立て、戦略的にコンテンツを配置していくことで勝算は見込めます。無名企業は、指名検索なんてされないし、プラットフォームで広く陣地を広げることは不可能なので、そこは認めた上で戦うことが肝になってくるのです。
ペルソナの明確化と体験価値の一致をさせてゆく
道場:
「探索」と言うのは、ターゲットとなる人の生活とか、興味・関心のあるものに寄り添ったものをコンテンツとして置いておくことで、潜在的にその企業が認知されるルートを作るってことですね。そう考えると、前提として「ペルソナの明確化」って、とても大切な気がしていますが、どう思いますか?
戸田:
ペルソナの明確化は絶対に必要ですね。そのペルソナの価値観に基づいて、興味がありそうな企業や仕事はもちろんのこと趣味とかまでイメージが出来ると良いですね。
道場:
弱者の戦い方という点で「社名を売るってことは、思い切って捨てた方が良い」ってことですよね?別に会社名は知らなくても、ユーザーにとって価値のあることを提供して、後から会社名を知るという流れでも良いと思うんで。
戸田:
そう思いますね。社員のツイートや記事コンテンツが出会いの起点であったとしても、そこでの発信が会社の価値観や在り方につながっていれば確度の高い出会いとなりますからね。もちろん逆に一致していなければミスマッチを助長させることにつながります。
道場:
自社で採用メディアを運用してみて、実際に手応えなどはありましたか?
戸田:
2020年1月からの運用なので、本当の価値を提供するのはここからですかね。今は、弊社として伝えていることに共感してくれる情報の受け手を増やすのではなく、弊社の考えが好きだと発信してくれる情報の作り手を増やすことに注力しています。そのため自分たちが素敵だと思うライターさんにお声掛けをして記事を書いてもらっています。価値観を共有した作り手の発信があってこそ、出会うべく人たちと繋がることが出来るからです。実際に新たな縁が繋がるきっかけになったり、縁が深まるきっかけとしてメディアが機能してくれています。データとしてもSNSで弊社に触れていただける機会が増えたことが明らかになっています。
時代に流されず、不変的で、自社理解が深まる濃いコンテンツを作って”ストック資産”に
道場:
新型コロナウイルスの影響で、急速にWeb化(デジタルシフト)が進んだ感じがあります。これからは、Webを活用したコンテンツのストック資産をどう作るのか、採用活動ももっと柔軟に考えられるところも増えると思うのですが、どう思いますか?
戸田:
そうですね。実際今までやらなかった、またはやれなかったことをやる動きは加速していっていると思います。YouTubeの発信は増えましたし、オンラインセミナーをよく見かけるようになりました。これはもちろん良い流れであるという大前提のもと危惧していることもあります。それは、オフラインでやってきた時には丁寧に作り上げたイベントがオンラインだと少し雑になってしまうってことです。手軽に出来ることはメリットだけではなく、デメリットになり得るということですね。
これは採用コンテンツでも同様です。発信することのハードルが下がった分、どうしても雑に作られたコンテンツも散見されます。これは資産と言うにはほど遠く、場合によっては負債にもなり得る…。最大瞬間風速を狙って、流行りに流されてしまうと、見られやすい一方で誰の心にも響かず残らずに終わります。流行っていると、大して美味しくなくてもタピオカジュースが売れちゃう、みたいなことが起きるんですよね。それでは、ファンがつかないんです。濃いコンテンツをしっかり作る意識を持つことでストック資産として残すことができる。ここは、採用広報メディアをやる上で、とても大切だと思っています。
道場:
PV数ではなく、読み手の企業理解を促す目的なのであれば、その体験ができるようなコンテンツの質が全てですもんね。
戸田:
はい。絶対数ではなく、「関係値」の方が大切だと思っています。例えば、Twitterでのイイネひとつとっても、田中さんも、鈴木さんも、佐々木さんも数字の計測だと全て「1イイネ」とカウントされるところが怖いところ。丸められると、その数字の濃さが分からなくなるんですよ。めっちゃ自社のことが好きな佐々木さんと、適当に流し読みした田中さんが同じ「1PV」なんて、本来あり得ないわけです。オフラインだったら、態度や姿勢などを見ていれば絶対わかるんですけどね。そのオフラインでの感覚をオンラインでも持たないといけないですよね。
道場:
絶対数ばかりではなく、接触の濃さを測るってことですね。例えば、コンテンツに対しての同一ユーザーの訪問回数など、何かの指標で計測しているんですか?
戸田:
そうですね。指標として数値化は難しいのですが、何かしらの能動的アクションをしてくれているかが大切だと思っています。コンテンツにおいて重要なのはリアクション(受動)よりもアクション(能動)です。例えば、求職者に「これを見てね!」と言ってコンテンツを紹介しますよね。そのあと「面白かったです!」「ありがとうございます」などのリアクションは返って来るんです。もちろんリアクションがあるだけでも有難いのですが、僕はその後アクションにこそ価値があると思っています。たとえば、求職者の方がリアクションのあと「面白くなって、他のも見てしまいました!」「読んだあとすぐに友達に紹介しました!」などのアクションなどがあるかどうかですね。
この発想は、リピートマーケティングから着想を得ています。弊社はサブスクリプションモデルでビジネスを展開しているのですが、ユーザーが他の商品も購入したり、他のサービスを利用したなどの能動的アクションをしていると継続率が高いというデータがあるんですよね。
道場:
なるほど。言われてみれば、自発的に本人が動いたか、意思決定したかは大切な気がしますね。採用活動フローでも、求職者にネクストステップを選んでもらうことで、歩留まり率が高くなる実感がありますので。
コンテンツ作りを通じて、第三者に自社の潜在的な長所を発見してもらうこともできる
道場:
最後に、採用広報や採用コンテンツ制作に取り組む上で、一言、お願いします。
戸田:
繰り返しになりますが、自分たちの会社の価値観や思想を体現するものをちゃんと作った方が良いということですね。
道場:
私自身が採用広報メディアの企画・制作支援をしている中でも、取材を通して、その企業の解像度を上げて、潜在的な価値をクリアにしていくことも、1つの価値になっているんだろうなって思います。第三者の視点から取材をして、アウター向けに記事を書いていくんですけど、数名に取材していると、どこかで「これ、この企業の共通した魅力だよね」って、つながることがあるんですよ。それが分かると、今度はインナー側にも転換できることもあって。課題とか、その企業が持っているけど潜在的にあって明文化されていないもの、そう言ったものを紡いであげるのが私の価値だったりするんですよね。求人要項を作っているだけだと出せない価値だよな、とも思いますね。
戸田:
そうですね。むしろ、それが企業にとっていちばん価値があるかもしれませんね。「それ、魅力ですよ」って言ってあげて、それを表現していきましょう、と。意識している長所は本物ではなくて、本当の長所は、息を吸うようにナチュラルにやっていることなので、自分たちではなかなか気付かないものなんですよね。
道場:
私たちは仕事上、当たり前のようにいろんな会社を見るので、比較することができるんですが、他社を見る機会がないと難しいのでしょうね。僕は、採用業務をこれまでやってきていない人が採用活動をした方が、これからは逆に上手くいくこともあると思ってるんですよね。従来の母集団形成主義のやり方を知らない人の方が良いと思っています。
当時は、ユーザーがまだ強くなかった時代。でも、今は違う。ユーザーが強い。そこを合わせていくスタンスを持てないと、ギャップが生まれてしまいますので。
戸田:
そこは大きいですね。だからこそ、自分たちの確固たる意志を持って発信をしていきたいですね。
道場:
そうですね!意志を持って取り組みたいです。本日はありがとうございました。
ポイントのまとめ
残った人に着目し、動機醸成度の濃い応募者を作ることにフォーカスを当てる
自分たちの会社の本質的な価値やブランドを体現するものを作り、マインドシェアを取る
Webは出会うべく人に出会うツールであり、つながり続けるためのもの
ペルソナの明確化と体験価値の一致をさせてゆく
時代に流されず、不変的で、自社理解が深まる濃いコンテンツを作ってストック資産に
コンテンツ作りを通じて、第三者に自社の潜在的な長所を発見してもらうこともできる