新商品が生まれるまでこぼれ話
沖縄の星野リゾート バンタカフェで働いている横森です。
カフェ店員・レストランスタッフとして働く一方で、食事や海辺での過ごし方を通して、ゲストに新しい価値観を提案できないかと日々頭を巡らせています。
3月〜5月にかけて海カフェ×アートを体現する「海辺のアートフェスティバル」を開催しました。その際、私はカフェタイムとイベントを楽しむためのドリンク「アートな島シェイク」の開発を担当。結構可愛くないですか?でもこれができるまでなかなか大変で…
今回はイベントも終了したので、開発の工程を辿りながら悪戦苦闘の日々を振り返ります。完成までのプロセスの中で開発のアプローチに対する気づきや再発見した仕事の楽しさ綴っていたきたいと思います。
コンセプト
アートイベントのスペシャルドリンクの開発ということで重要視したポイントは以下3点。1、見た目の華やかさ 2、アートとの親和性&連動性 3、沖縄らしい素材を使った美味しさ
コンセプトを考える上で、アートというワードからパッと思いつくイメージをキーワードにストーリーを考えました。その時出てきたキーワードは、「白いキャンバス」と「絵の具」です。(今時のアートから連想するにはステレオタイプなようなきがしなくもないですが…笑)
そして関係者で意見を交わして決めた方向性がコレ。
ゲストが自分自身でアートな色合いに変化を持たせられる「体験価値」がポイントで、なんだか楽しいものができそう〜と意気揚々でした。しかしこれが難しく…
試作その1
記念すべき試作第一号。
白いキャンバス部分はミルクシェイクををベースに作成しました。そこに熱帯地方を想起させるバナナと、沖縄の島豆腐を原料としたジェラートをブレンド。バナナと島豆腐の味の綱引きの塩梅が難しい…
絵の具はカップのボトムに赤のピューレ(フランボワーズ)と黄色のピューレ(マンゴー)をそれぞれ沈めて、シェイクをドバッとそそぎます。
個人的にはこれくらいでもまぁいいんじゃないかなと思っていましたが、他の人からは色んな意見を頂戴しました。
「味は微調整でなんとかなりそう」
「工数が少なくていい」
「かわいいっちゃ、かわいい」
「悪くはない」
「悪くはないけど、良くものない」
「見た目が物足りない」
「アートか?って言われると…」
「色がうすい」
「シンプルすぎる」
ムムム…やはり一発回答とはいきません。
シンプルで綺麗だけど物足りない。おっしゃる通りです。自分としてもどこか妥協していたところがあったので、思い当たる節はありました。理想も目線も高く持つべきです。
打開策として、ここから足し算の方向に向かいます。
試作その2
キャンバスに1色では色数が少なくてシンプルすぎるゆえ、2色にします。
素人目に見てもイマイチなので、ほぼ自己判断で却下なのですが色んな人から意見をもらいます。
「工数増えた」
「綺麗ではない」
「まだら模様のグラデーションがもう少し綺麗なれば」
「赤と黄のバランスがイマイチ」
「美味しくなさそう」
「わからない」
今振り返るとこの辺りからすでに迷走していました…
この時ビジュアルのイメージとして描いていたのが、シアトル系コーヒーショップの人気商品であったり、台湾系ティーショップのフローズンティー。
あのビジュアルイメージに何かしらアートな要素を加えるべく、あれやこれやと試行錯誤をするわけですが…ある程度大量生産を前提とした再現性があるものを作る上で、ピューレとシェイクの粘度のバランスをとる難しさがあり、その問題に直面します。
例えばピューレがゆるいとシェイクを注いだ時に過度に混ざりすぎてまだらにならず、逆にピューレがジャムのように強い粘度だと分離して、いくら混ぜても綺麗にならなかったりします。(チェーン店の再現性はすごいです)
そして見た目をより華やかにしようと色数を増やすと今度は工数が増えて現場に負担がかかる。
どうしたものか…
ヒントとしてインスタグラムやネット検索やPinterestで画像検索をしながら打開策を探しますが、これだ!というものがありません。正解が分からないままとにかく手を動かすことでしか現状打破をする手立てを見つけられませんでした。
試作その3
そして、さらに足し算。迷走の末に生まれた世紀の失敗作。世間に晒すのは恥ずかしい限りですが、あえて晒したいと思います。
迷走すると人は何をしだすかわかりません。
この時自己判断の物差しは完全に壊れていました。
他の人から意見をもらいましたがよく覚えていません。総じて、
「お、おう…」
こんな感じだったと思います。
ここまでくると味もへったくれもありません。
アートとは「再現性がない」ものであり、私たちが作っているものでは商品で「再現性がある」もの。そもそも相反するものが両立したものをゴニョゴニョ。
コンセプトも、味も崩壊しました。
ピューレの色を増やしたことで味はめちゃくちゃです。何を飲んでいるのか焦点がぼやけて、根本的に美味しくありません。
工数も増えました。仕込みもさることながら、試作1に比べると3倍の工数がかかります。おそらく現場で行うのは不可能でしょう。
アートか?誰が見てもアートではないでしょう。
もうこれ以上同じコンセプトを突き詰めてもできるものは変わらないことに気づいて絶望しました。手札を使い切りもう私の力ではどうすることもできない…
しかし締切は近づいているのでなんとかしなくてはなりません。
何を残して何を諦めるか
結論から。パティシエの知恵を借りて最終形が完成しました。
構想から諦めたことが一つあります。それはコンセプトの、
というところ。ゲスト自身が混ぜながら楽しむ「体験価値」の部分を諦めることにしました。
試作で散々こだわってきた部分ですが、引き際が肝心です。タイミングを見誤ると戻るに戻れなくなるので、ここは前向きに妥協します。
そして残したことは、
付加価値としての体験はなくなりましたが、限りなく初期の構想段階に近ずれけることができました。むしろ焦点が定まり解像度が高まったとも言えます。アートイベントの商品と考えると、しっかりとシナジーを生み出せて新たな価値提案に繋がりました。
カップの表面に粘度が強めのピューレをスプーンで塗りっとこすりつけました。レストランの料理で皿にソースををもりつけるときに使う技法と近しい装飾方法です。
白いキャンバスの部分は素材のブレンドを微調整して、島豆腐の大豆の風味が感じられるバランスで仕上げました。ピューレと混ぜてる必要がないので、味のピントがしっかり定まったように感じます。
モノづくりの楽しさとは
たかがドリンク、されどドリンク。ゼロイチのフェーズにはどんなものだっって苦しさや楽しさが含まれます。
もの物作りをしていると迷走することは往々にあります。その都度悩んで、失敗して、落ち込み、自分のスキル不足を嘆きます。
数年前までテレビ業界で番組制作していた若手の頃、まったく同じ悩みを抱え、似たようなプロセスを辿っていたことを思い出しました。
作るものが変わっても起きうることは同じですね。(学ばないといえばそれまでですが…)
しかし、完成した時の喜びは何事にも変えられません。販売を開始して老若男女問わず注文が入り、写真を撮って美味しそうに飲んで、会話が弾んでいる姿を見ると、嬉しい気持ちになります。
試行錯誤から誰かに届くまでのプロセスそのものが私にとってのモノづくりの楽しさであり、イコール仕事の楽しさでもあります。
モノづくりのアプローチについて
目指すべきは豊富な知識と技術から生まれる発想と、しっかりした完成図をもとにものづくりを行うアプローチこそ理想です。
効率の観点からするとそうすべきとも言えます。
しかし、どちらも不足していていると(今回の私みたいに)、完成形を手探りで見つけていくしかありません。失敗を繰り返しながら正解を探していく作業といいますか。
この場合、本来は模倣から入るアプローチの方が効率的です。
一方で今回のアプローチは非効率的ではありますが、失敗の中にたくさんの気づきを与えてくれます。
大量のリサーチと足し算引き算の繰り返しが自分の血肉となる実感があります。その分時間と費用はかかりますが…
制作の過程で迷走すると、足し算を繰り返して無駄な贅肉がつきがちです。その時に、本当に必要なものを見極めて、引き算をして贅肉を落としていく。そして焦点を合わせていく。このアプローチが自分の映像編集のプロセスと似ていて今回非常にしっくりきました。
さらに、この引き算の先に、何かしらの因子を掛け算することで、自分が想像していたよりも遥かにいいものが生まれることがあります。
この因子部分は得てして自分が持っていないもの。
今回はパティシエの技術がそれにあたりますが、デザイナーや化学の領域など専門分野が変わればまた違った結果となっていたかもしれません。
1人で作るより誰かと作る、想像より上のものができあがる、これこそモノ作りの醍醐味です。そして作っては世に出していくことの繰り返しが自分の目線の高さを鍛えていくことになるのでしょう。
長くなりましたが、今回の私の失敗がものづくりをする誰かに届いて少しでも役に立てたらいいな〜と願ってます。
今回もご覧いただきありがとうございました🙇♀️
7月か新しいイベントが始まります。夏休みは是非バンタカフェへ♪
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