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ドラクエ経済はギャンブル式?(中編) ~メタバース経済考
決して「お金をかけて、お金を稼ぐ」わけではないけれど、ドラクエ10(ドラゴンクエストX)の経済は「ギャンブル」に似ています。都度、必要な金額は少額で済むけど、でも累計すればけっこうかかった、というかたちで「先見性」が発揮されにくくなっている――というお話の続きです。
ただしそれは主に、万人に関わる基礎システム的な経済の流れの話です。
それとは別の、「プレイヤー間の売買」には支払いを積み重ねる仕組みが適用されないので、希少品はただ単純に高額になります。なお、プレイヤー間の取引には税金(取引成立時に5%)がかかり、もうそれが受け入れられてしまっているため、あまりケアがなされていない印象があります。
そして、「先見性」が発揮されない落とし穴は、プレイヤー間の取引にも別のかたちで存在しています。ドラクエ10はキャラクターの強さや、装備品の価値も先を見通しにくいのです。これは、数ヵ月ごとにレベル上限がちまちまと解放される運営がなされているためで、ドラクエ10の高額品には「これさえゲットすればしばらく安泰」という感覚がありません。ドラクエ10の世界は、日用品に溢れているのです。
貯金を楽しめることの重要性
また生産者保護の観点から、一度身に着けた装備品はプレイヤー間の取引ができないシステムになっており、トレンドが過ぎたかつての高額装備を「お下がり」として少し安く売ることができません。現実世界で例えれば、家も自動車もPCも中古では売れないのと同じです。メルカリもヤフオクもないようなものです(未使用品は取引できますが)。
総じて言えば、ドラクエ10の経済は他のMMORPGに比べて参入障壁が低い反面、相対的に「貯金の楽しみが弱い」といえます。貯金の楽しみがない、と言い切らないのは数億G(急に超高い)で「街(別荘地のような広い土地)を買う」という要素が稀にあるためですが、日常的には「貯金を楽しめない」と言えます。
「貯金を楽しめない」というのは、無視できない要素です。
現実の経済においては、よく中間搾取業の方々を中心に「お金を使え! 経済を回せ!」と貯金を悪のように言っていますが、ぼくらは経済を回すために生きているわけではありませんのでお断りです。経済を良くするために必要なのは、皆が「望んで」「より働く」ことであり、それには「貯金してでも買いたいもの」が欠かせません。
日本は「貯金してでも買いたいもの」、つまり新しく、そしていち早く所有したいものが生まれなくなりました。起業家を自称するゴロツキたちが効率よく稼げるとわかった分野にあとから押しかけて競争を激化させるため、業務で利益を出せず、従業員の給料もあげられない時代が長く続いてきました。
そのうえ税金を「コツコツ多額に」むしり取られていくわけですから、貯蓄が0に等しい層が増えていくのも当然です。こうなると、仮に「貯金してでも買いたいもの」が生まれても、売れ行きが悪化します。
庶民は老後のこともあるし貯金するのは自然なこと、民間業者も発明能力のないハイエナが産業を疲弊させるのは避けられない、ということはどちらも自然なことで、受け入れなくてはいけません。だからこそ、そのうえで経済全体を活性化させるために国家の政治は「新しい、ほしいもの」の発明を促す必要があり、MMORPGにおいては開発・運営者がその役割を担う必要があります。
そのとき一般市民が経済に寄与できることがあるとすれば、生まれた発明、新しいものを供給するひとたちの成果に与るために貯金をしておくことです。社会は人と人とが支え合うことが先にあり、お金だけが循環すればいいわけではありません。これは現実もMMORPGも同じです。
もちろん貯金をせずとも、まずローンを組んで買ってしまい、あとから返済するのもありです。貯金をしてでも買いたいものの存在は必要ですが、取得手段はいろいろでいいのです。
MMORPGでローンの仕組みを導入するのはかなり難しいですが、日常的に貯金を楽しめる世界の場合は、自分の貯金をローンがわりに一時的に使ってしまい、返済するがごとくまた貯金しなおす、というかたちで個人単位で「自分から自分へのローン」を再現可能です(信頼があれば友人と貸し借りすることもあります)。
そう言うと、「そのローン代わりにする貯金は(目的もなく)ためてあるものなの?」と疑問に思うかもしれませんが、そうです。貯金してでも買いたいものがあり、そして「また現れるだろう」という"先見性"が働けば、特にほしいものはなくても、労働=社会貢献意欲は高まり、お金は苦もなく貯まってしまうんです。
これが本当の、経済の好循環です。
ドラクエ10の経済は日本同様にそういった視点が欠けているため、わりと先行きが不安です。おそらくドラクエ10の開発者は、ポジティブな気持ちでプレイヤーの心理的ハードルを下げるために「先見性」を奪う采配を行なってきたのだと思いますが、これは「負けている経済」が取る手段であり、悪手だと言えます。ただし、これは運営開始初期(2012年)に「金策がつらい」とさんざん批判され、それを覆い隠す必要があったことも関連していると思われます。
次回、後編ではドラクエ10の運営に影響したと思われる「時代背景」について考えてこのシリーズ記事をひと区切りとします。
(つづく)