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猫の外飼いもありなケースを考える ~マンション・団地で猫を飼おう計画

このnoteで続けてお届けしている「マンション・団地で猫を飼おう計画」は、昭和・戦後の時代に決められた無知と偏見にまみれた集合住宅のペット禁止ルールに反抗するために「よく考える」シリーズです。

「完全室内飼育」という概念が存在する現代においては昔の"放し飼いが当然"だったペット禁止ルールは極めて不当である、としてこれまで判例と法的な背景や現実の居住空間の適正について考えてきました。

それでも屋外で猫を飼うこと

今回はそこからちょっと脱線して、「それでも屋外で猫を飼うこと」について考えていきます。

もちろん、「事故や病気、拉致などの心配があるから外で飼うべきではない」という考えを否定するわけではありません。子猫のように、完全室内飼育に順応する可能性が高ければいいでしょう。しかし、すでに外での暮らしになれてしまったオトナの野良猫を、あとから"完全室内"で生活させるのは困難な場合が少なくありません。

無理に室内に押し込めて「外へ出せ~」と長期に渡って鳴き続けることがあっては、さすがに近隣に迷惑をかけることもあるでしょう。なにより当の猫自身に対して大きなストレスを与えてしまううえ、うっかり逃げ出した際に悲しい事態を招きかねません。

考えなければいけないのは、この先のことです。

完全室内飼育は無理だからといって、「野良猫は放っておくしかない」というのはちょっと違いますよね。

都会・都市部を中心に、人類社会のせいで地面はアスファルトやコンクリートに覆われ、自然は減少して捕食できる動物も極端に減少するなかで、野良猫たちは追い詰められ、苦しい生活を強いられています。

うまく共生するためにできることはないのでしょうか?

野良猫は加害者にあらず

人類が犯した過ちの贖罪に、せめて周辺に暮らす野良猫たちに少しのごはんくらいあげたい……と思う人々は少なくありません。でも、そうやって生活を支えることで猫たちが繁殖し、地域の猫密度が増すことで糞尿による被害が出るなどの理由で、「野良猫への餌やり」は良くないこと、秩序を乱す行為とみなされます。

しかし糞尿被害は、前述したようにアスファルトやコンクリートで周辺地域を覆っていたり、土があっても踏み固めたり砂利で覆っているせいで「小動物が掘れる土地」が少ない(=稀に存在する花壇などに集中しやすい)せいです。人類の都市計画・社会設計の誤りがその原因ですから、間違いなく野良猫たちは被害者です。

この問題を正面から解決しようとせずに動物たちを加害者とみなし、「排除」という虐待を続け、さらに動物たちに手を差し伸べる価値観すら批判して「反秩序」とみなすことは極めて重大な理不尽だと言えます。

勝手ルールの弊害

マンション・団地の多くには、「動物への餌やり禁止」ルールがあります。ぼくが暮らしているダメダメ団地でも、入居時に住民に配布される「団地生活のルール」にそう書かれています。

ただし、規約とは異なる「勝手ルール」です。

それぞれ規約の文言などは異なりますが、いくら規約で「動物の飼養」が禁止されていたとしても、たまの「餌やり」をも"飼養"とみなして禁止するのは拡大解釈にすぎません。

住民(管理組合員)による議決を経ずに理事会が勝手に決めたルールは法的拘束力を持たないとする東京高裁による判例(「入居案内がその作成の経緯に照らして区分所有法上の規約と同等の拘束力を有するとは認められない」)があるので、このような勝手ルールに従う必要はまったくありません。

ただし、だからといって何をしても良いわけではありません。

結果的に迷惑をかければ賠償責任を負わされることはありえますし、継続的に餌を与え続けることで"人の手を借りないと生きていけない"ようにするなら一生面倒をみる覚悟が必要です。

「勝手ルールに従う必要がない」というのも、あくまで、規約違反(法的な不法行為)とはみなされないだけのことです。また、「継続的な餌やり」と「寝床を用意した」ことによって「飼育している」とみなされた東京地裁による判決(「単に餌やりをしているのにとどまらず 被告専用庭等に段ボール箱等を用意して住みかを提供しているものであるからこれらの猫を飼育しているものと認めるべきである」)もあります。

だからといって「たまの餌やりくらいならOK!」と言いたいわけではありません。

単純な「餌やり禁止ルール」の問題は、「TNR活動」をさせないことなどによって、逆に秩序の回復や保全を妨げることにあります。

餌やりは「反秩序」なのか?

野良猫に餌をあげることは「けしからん」とする"常識"がまかり通っています。でも、本当にそうでしょうか?

今や広く一般的に知られるようになったいわゆる「TNR活動」は、野良猫を捕獲(=Trap)し、去勢・避妊(=Neuter)して元の土地へ返す(=Return)ことによって、繁殖を抑えて猫密度を下げていくことで不幸な動物を減らし、様々な被害を減らそうという活動です。民間のボランティアが中心になって実行しているだけでなく、地域によっては自治体が支援することもあります。

市の環境政策課が協力を呼び掛ける立て看板

TNR活動は、餌を与えて手懐けたり罠に餌を仕掛けることで野良猫を捕獲するところから始まります。そう、単純な餌やり禁止ルールに固執していると、TNR活動は実行できないのです。

TNR活動は間違いなく人の生活の秩序を守り、しかも自治体が後ろ盾になるほど社会的合意を得ている"秩序的な行ない"です。単純な餌やり禁止ルールをそのままにして、TNR活動の邪魔をするのは逆に秩序に反する立場にあります。

「野良猫を部屋に招く」は反秩序にあらず

単純な餌やり禁止ルールには、ほかにも大きな盲点があります。それは、住民が「野良猫を自室に招いた場合」です。これはマンションに限らず、戸建ての住宅地にも関連します。

例えばマンションの1階に暮らす住民宅のベランダや、戸建て住宅の庭を訪れる野良猫がいたとします。この野良猫を自室に招いてごはんをあげることは、どんな「秩序」に反するのでしょうか?

ダメダメ団地を縄張りにしている黒猫さん

野良猫への餌やりが「けしからん」とされる根拠は、餌やりの場所に野良猫たちが集ってしまうことを発端に、大繁殖、喧嘩や発情期の鳴き声、糞尿被害という問題が生じることにあります。しかし、これらは餌を屋外に置くと不特定多数の猫に対して給餌することが大繁殖を招いて生じる現象であり、特定の野良猫のみを自室に招いた場合なら、同じ問題は生じません。

餌をもらった野良猫が近所で糞をする、という指摘もあるでしょう。しかし、もともとその地域を縄張りにしている野良猫は、人が給餌せずとも近隣で鳥などを捕食し、糞をします。住民が室内に招いて給餌しても、それによって被害が増えるわけではないのです。むしろ、捕食された鳥などの死骸が近隣に放置されることが減ります。

また、招いた野良猫のために室内に猫トイレを用意した場合はどうでしょう? 猫は臆病な動物ですから、安全に用を足せる場所があればそこで用を足します。かつてうちの猫たちは放し飼いスタイルで暮らしており、室内に用意してあった猫トイレを(それぞれ頻度は異なるものの)利用していました。

もちろん室内にトイレがあっても、そこでしか用を足さなくなるわけではありません。しかし、もともと100%外で用を足していた野良猫が、半分でも、あるいはたった1割でも招かれた室内で用を足し、家主がそれを片付けるようになったらどうでしょう? 周辺への糞尿被害を減らすことで、住民のためになる行為です。あとから糞尿を片付ける清掃活動よりも、先手を取って根本的に被害を減少させる"秩序的な行為"だと言って間違いありません。

避妊手術を受けているらしく耳先がカットされている、顔なじみの靴下ちゃん。

「餌やり」の問題点の根幹は、繁殖等による個体数の増加(に伴う被害拡大)にあります。招き入れる野良猫を少なく、1匹に限るなどの条件下でなら被害は増加せず、減少させることができるのです。

室内に寝床を用意してあげるのも良いでしょう。他の野良猫と喧嘩して騒音被害となることも減らせます。このように、もともと周辺に生息している野良猫を自宅に招き入れるという前提であれば、「餌やり」だけでなく「飼養」すらも、秩序の保全と回復に貢献できるのです。「なにもしない」より、ずっと。

見方を変えて「誰かが野良猫を引き取ってくれる」、「野良を"半野良"に変えていく」と言えば、周辺住民皆の利益になる行為だということは、当たり前のことです。しかし先入観に縛られて「餌やりはダメ」「ペットは迷惑」と繰り返すだけの言葉の自動機械(©宮台真司)になっていては、こういった事実に気付けません。

意識改革の第1歩に

以上のように、周辺に存在している野良猫を誰かが室内に招き、"半野良"として扱うことは猫を嫌うような人にとってもメリットのある立派な社会運動となりえます。

ただ、マンション・団地で「TNR活動や、"半野良化活動"のための餌やり、招き入れは認めよ」と求めたところで他の住民が納得するかどうかは相手の誠実さや考える気力の有無によります。うちのダメダメ団地がそうであるように「動物は迷惑」と信じ思考停止する人々は、知識もないのに、いえ知識がないからこそ、「とにかくダメ!」と言い張ることでしょう。

今回のこの記事に書いてあることを要約して短縮したとしてもまあまあ面倒なことですから、よそのマンション等でも、誰もが理解してくれると考えられるほど簡単な話ではありません。

それでも、マンション・団地のペット禁止規約を「ペット可」にひっくり返す苦労に比べれば、比較的容易に実現できる要求だと言えます。そして凝り固まった古い考えを打破し、意識改革を促す一歩目として有効なテーマでもあります。

1階に住んでいないと「招き入れ」は難しいのですが、自分のためではなく猫たちのために、マンション・団地における単純な餌やり禁止ルール打破に挑戦する有志が増えることを希望します。

もちろんぼくは、この記事をもとに要求してみます!

(つづく?)

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