連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」21
身体と動きの新法則
筋共鳴ストレッチ
第21回 腰の硬さを解消する〜その1(腰仙関節と仙腸関節)
文●扇谷孝太郎
Image: iStock
今回は「腰の硬さ」を改善していきましょう。
「股関節が硬い」という方の場合にも、調べてみると「腰」に問題があって股関節の動きを制限していることがよくあります。
とくに前屈や開脚でお悩みの方は、股関節だけではなく腰の動きに注目してみると良いでしょう。
腰が硬くなる原因は、
座っている時間が長いこと
運動不足
姿勢の歪み
偏った呼吸パターン
事故や怪我
手術
内臓疾患
など多岐にわたります。
このように原因はさまざまですが、共通しているのは、結果として以下の関節の動きが悪くなる点です。どちらも、第3チャクラ(へそ)〜第2チャクラ(丹田)の間をつなぐ関節です。
これらの関節の動きを改善するには、腹腔内圧を保持する力の向上が大切な要素になります。そのためには、腹腔内圧を調節するインナーユニット(※1)の一部である「多裂筋」の働きに加えて、同じく背骨を支える深層筋である「横突間筋」がしっかり活性化される必要があります。
(※1)インナーユニットは「横隔膜」「腹横筋」「骨盤底筋」「多裂筋」によって構成されます。これらの筋肉の収縮により腹腔内圧が高まります。
また、腰仙関節の安定性には「腰方形筋」仙腸関節の安定性には「大殿筋」の働きが欠かせません。
今回と次回で、これら3つの筋肉にアプローチしていきましょう。今回は、まず横突間筋と腰方形筋の筋共鳴ストレッチをご紹介します。
横突間筋の位置と働き
横突間筋は、多裂筋と同様に一つ一つの椎骨の間をつなぐ小さな筋肉です。
多裂筋が背骨の中央の棘突起と側面の横突起を斜めにつないでいるのに対して、横突間筋は垂直に上下の横突起同士をつないでいます。
それぞれの筋肉のつき方を見るとわかるように、多裂筋が主に回旋の動きに作用するのに対して、横突間筋は側屈の動きに作用します。
ただ、どちらも非常に小さくて短い筋肉なので、力は強くありません。背骨の動きの主役はいくつもの背骨をつないでいる大きく長い、脊柱起立筋などの筋肉です。多裂筋や横突間筋はそれらの動きの陰で、椎骨の間の関節の動きを調整して安定させるのが主な仕事です。
また、筋肉の動きを脳に伝えるセンサー(固有感覚受容器)が豊富なので、動きそのものよりも、それを監視するモニタリング装置としての役割が大きいとも考えられています。
これらの筋肉が固まった状態では、脊柱起立筋などの背中の大きな筋肉はスムーズに伸びることができません。筋共鳴をつかって活性化させましょう。
横突間筋の筋共鳴
横突間筋の筋共鳴の相手は、足の指の背側骨間筋です。
この筋肉は、親指を除く4本の足の指を付け根から反らせるとともに、指と指の間を広げてパーの形をつくります。
また、足裏側の底側骨間筋などと協力して、足の指をゆるやかにカーブさせてアーチ(※2)をつくる働きもしています。
この「足の指のアーチ」は歩行の際のつま先での蹴り出しや体重支持に非常に重要な役割を担っています。このアーチが機能低下を起こすと、膝や股関節に負担がかかり、故障の原因になります。とくに膝のお皿周辺が痛む場合には、要チェックです。
(※2)アーチ:上方に弓状に円弧を描いた構造。上からの荷重に強い。エッフェル塔の基部はその一例。
さらに、足の背側骨間筋は、横突間筋以外の筋肉とも共鳴しています。太ももの前側の大腿四頭筋や膝関節筋です。これは膝の関節の伸展筋(膝を伸ばす筋)なので、足の指をパーの形に開くと、膝を伸ばしやすくなります。逆に靴下やストッキングなどでつま先を締め付けていると、背側骨間筋が固まってしまい、膝の動きを悪化させます。その点でも背側骨間筋は膝の故障と深く関係しています。
なお、背骨の側屈にかかわる横突間筋と、足の指をコントロールする背側骨間筋、そして、膝の伸展を行う大腿四頭筋、この3者がそれぞれ筋共鳴で連動して動くようになっている意味は、歩行動作を円滑に行うためだと考えられます。
横突間筋の筋共鳴ストレッチ
横突間筋と背側骨間筋は筋共鳴の関係にあるので、どちらかが緊張して固まっていれば、もう一方も緊張しています。
前述のように横突間筋は脊柱起立筋の動きをサポートするように働きます。そのため、脊柱起立筋の柔軟性を高めるには、まず横突間筋の柔軟性を高める必要があります。しかし、そもそも脊柱起立筋が柔軟性を失っている状態で体幹の側屈をつかったストレッチを行っても、深部の横突間筋まで刺激するのは困難です。
そこで、足の背側骨間筋のストレッチを通して、先に横突間筋を刺激して柔軟性を高めることで、効果的な脊柱起立筋のストレッチが可能になります。
また、背側骨間筋を介して横突間筋を刺激するメリットとして、背骨全体にまたがって存在する横突間筋を、目的に合わせて分割して調整できることが挙げられます。ロルフィングのように姿勢や動作を分析した上で、より細やかなコンディショニングをしたい場合にはとても役立ちます。
背側骨間筋と横突間筋の対応は、以下のようになっています。
この表にあるように、今回のテーマである腰仙関節や仙腸関節にもっとも影響を与えるのは、薬指と小指の間の第4背側骨間筋ということになります。
<横突間筋:背骨全体へのアプローチ>
まず、第1から第4背側骨間筋までの全部をつかって脊柱全体の柔軟性を高めるストレッチをしてみましょう。その上で、腰の柔軟性にフォーカスする場合には、薬指だけのストレッチを念入りに行うと良いでしょう。(動画21−1)
椅子に浅く腰掛けます。
胸の前で腕を交差して、手のひらで両肩を軽く押さえます。
頭から体幹全体を左右に側屈させて、柔軟性をチェックします。側屈した方向と反対側の坐骨が浮かないように注意しましょう。
左の足を右の太ももに乗せて、足の甲を左手で固定します。
足首を反らして(背屈)、右手で足の指全体を包むようにして、付け根から深く屈曲させます。
3〜5回深呼吸をします。背すじを伸ばして、肛門をかるく締め、お腹→胸→首と全身が大きく膨らむように吸って(努力吸気モード)から、息をしっかり吐ききります(努力呼気モード)。
足の指の付け根から甲にかけてが伸びるのを意識します。
左足を下ろして、最初と同じように体幹の側屈を試してみましょう。左半身の伸びが良くなっているのを確認します。
左右を入れ替えて、右足の背側骨間筋をストレッチします。
<横突間筋:腰へのアプローチ>
つぎに、腰仙関節にピンポイントに効かせるように、下部腰椎から仙骨にかけてのる横突間筋を活性化してみましょう。(動画21−2)
まっすぐ立ち、膝を曲げないように注意しながら骨盤を前傾(腰が反る)、後傾(腰が丸まる)、左右に側屈(お尻を振る)させてみます。腰仙関節の柔軟性をチェックします。
椅子に浅く座って、左の足を右の太ももに乗せて、左手で足の甲を固定します。
足首を反らして(背屈)、右手で左足の薬指をもち、軽く引っ張りながら付け根から深く屈曲させます。
3〜5回深呼吸をします。背すじを伸ばして、肛門をかるく締め、お腹→胸→首と全身が大きく膨らむように吸って(努力吸気モード)から、息をしっかり吐ききります(努力呼気モード)。
再び立って、骨盤の前傾、後傾、側屈の動きを確かめてみましょう。
左右を入れ替えて、右足の背側骨間筋をストレッチします。
この腰仙関節へのアプローチとあわせて、多裂筋にも働きかけておくとさらに腰の動きをバランス良く改善できます。
多裂筋に対するアプローチは、手の薬指を付け根から深く屈曲させるストレッチになります。
腰方形筋の位置と動き
腰の柔軟性には、横突間筋と合わせて「腰方形筋」の働きが大切です。
腰方形筋は第12肋骨と第1〜4腰椎の横突起から始まり、骨盤の腸骨稜(寛骨上部のゆるやかにカーブしている部分)までをつないでいます。
体幹(とくに腰椎部)の側屈や伸展の動きをサポートする深部の筋肉です。側屈の動きは、この他にも腹側では腹直筋/内腹斜筋/外腹斜筋、背側では脊柱起立筋群が一緒に働きますが、筋肉の繊維の方向としては、腰方形筋がもっとも純粋に側屈の動きに対応しています。
また、腰方形筋は左右両方が同時に収縮すると第12肋骨と腸骨稜を近づけるため、体幹の伸展にも働くことになります。そのため慢性的に緊張して短縮したままになると、反り腰の姿勢になって腰痛などの原因になります。
歩行時には脚の上下動にともなう骨盤の左右の傾斜を調節する働きもあります。もし左右どちらかの腰方形筋が縮んだ状態になると、骨盤が傾き、体幹にねじれが生じることになります。
腰方形筋の筋共鳴
腰方形筋の筋共鳴の相手は、前腕の背面側にある「手根伸筋群」です。手首を反らす動き(背屈)で働きます。
この手首を反らす動きは、手の指の伸展筋である総指伸筋などの指を反らすための筋肉によっても行えます。そのため、そちらで代償してしまい、手根伸筋群が固まっていることがよくあります。
また、最近、ノートパソコン用の台座で本体ごと傾けて使っている人をよく見かけます。キーボードを急角度で傾けて使う人の場合、つねに手首を反らした状態になります。そのため、手根伸筋群が短縮してしまい、慢性的な肩こりや腰痛の原因になっていることがあります。
手根伸筋は、以下の3つがあり、それぞれ腰方形筋の上部、中部、下部に共鳴しています。今回のテーマに一番関係が深いのは、腰方形筋の下部と共鳴している「尺側手根伸筋」です。
なお、これらの手根伸筋は、足首を反らす(背屈)ための筋肉とも共鳴しています。このことは、筋共鳴によって、体幹の側屈の動きと手首・足首の背屈の動きが連動していることを意味しています。
この連動は、四つ這いで移動する際に必要になります。そうであれば、筋共鳴のメカニズムの起源は進化の中で、人間の祖先が四足歩行していた時代に遡ると考えられます。
残念ながら、筋共鳴のメカニズムが脳の中でどのように形成されているのかは、いまのところ解明されていません。しかし、進化の過程でどのような必要性から形成されてきたのか?については、このように共鳴しあう筋肉のグループを見ていくことで、推察することができます。
腰方形筋の筋共鳴ストレッチ
腰方形筋のストレッチは、体幹を側屈させることで可能になります。しかし、縮んで硬くなった腰方形筋を側屈によってピンポイントに狙ってストレッチするのは難しく、しばしばその上下の関節、つまり胸椎部や股関節の側屈によって代償されてしまいます。腰方形筋の付着している腰椎はもともと側屈しにくい構造なのに対して、胸椎や股関節は側屈に向いている構造だからです。
そこで筋共鳴を利用して、ダイレクトに腰方形筋をゆるめていきましょう。(動画21-3)
<腰方形筋の筋共鳴ストレッチ>
椅子に浅く腰掛けます。
胸の前で腕を交差して、手のひらで両肩を軽く押さえます。
頭から体幹全体を左右に側屈させて、柔軟性をチェックします。側屈した方向と反対側の坐骨が浮かないように注意しましょう。
左腕を前方に出して、肘をしっかり伸ばします。上腕は外旋(力こぶが上を向く)、前腕は中間位(手が垂直になり、中指を軸に親指が上、小指が下になっている)にして、手首を掌屈(手のひら側に曲げる)させます。
右手で左手の甲をにぎり、手前に引いて前腕部の背面がストレッチされる感覚を意識します。このとき一番伸ばされるのは、「短撓側手根伸筋」です。
3〜5回深呼吸をします。背すじを伸ばして、肛門をかるく締め、お腹→胸→首と全身が大きく膨らむように吸って(努力吸気モード)から、息をしっかり吐ききります(努力呼気モード)。前腕部のストレッチ感を意識します。
上腕は外旋のまま、前腕を回外位(手のひらが上を向く)にして、5、6を繰り返します。このとき一番伸ばされるのは、「尺側手根伸筋」です。
上腕は外旋のまま、前腕を回内位(手のひらが下を向く)にして、5、6を繰り返します。このとき一番伸ばされるのは、「長撓側手根伸筋」です。
再び、最初と同じように体幹の側屈を試してみましょう。左半身の伸びが良くなっているのを確認します。
左右を入れ替えて、右腕の手根伸筋群をストレッチします。
このストレッチをすると、前腕の手根伸筋群が伸びてくにともなって、脇腹の奥のほうで力が抜けるような感覚が感じられるでしょう。それが腰方形筋がゆるんでくる感覚です。また、腰方形筋が付着している第12肋骨は、同時に横隔膜の後端の付着部でもあります。そのため、深呼吸をしている間に、呼吸が深くなってくるのも感じられるでしょう。
なお、腰椎部の側屈は、最初にご紹介した横突間筋も関わっています。腰方形筋と横突間筋の両方の筋共鳴ストレッチを行うことで、より効果的に体幹の側屈に働きかけることができます。ぜひ試してみてください。
次回は、残りの大殿筋へのアプローチをご紹介します。
(第21回 了)
※(筋共鳴)は登録商標®️です。
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タイトル:【オンライン】ロルフィング(R)に学ぶ 横隔膜の探求ー生命力のカギを知るー
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タイトル:【オンライン】ロルフィング(R)に学ぶ 「蓮華座のための股関節をほどく」集中レッスン
日時:2022年10月17日(月)13:30〜16:30
場所:オンライン(ZOOM使用)
講師:扇谷孝太郎
料金:早割:13,300円(税込)9/17までのお申込
一般:15,700円(税込)
【直前価格】17,000円(税込)開催前24時間のお申込
お申し込みはこちらから。
–Profile–
●坂本博美(Hiromi Sakamoto)
パーソナルトレーニングルームh.lab主催。
ダンサーとして活動する中、自分自身の怪我の悩みから脳や視覚から受け取るイメージと、実際に身体に起こっていることとのギャップに気がつき、ボディワークや生理学などについて学び始める。
現在は関東関西の各小学校「姿勢教室」開催、企業や小学生から高齢者まで幅広い年齢層へエクササイズを提供している。
胎生学(キャロル.A)、センサリーアウェアネス(ジュディスウエーバー)、フォーカシングベーシック(日本精神技術研究所)、オステオパスバイオダイナミクス(トムシェーバーD.O.)、DVRT(ダイナミックバリアブルレジスタンストレーニング)、オリジナルストレングス、TRXサスペンショントレーニング、グレイインスティテュート3Dmaps受講。
機能解剖学を扇谷孝太郎(ROLFING®️™️)に師事。
■資格
GYROKINESIS®Level1、GYROKINESIS®Level2、Beginner GYROKINESIS®HappyMoves認定トレーナー
そのほかのメディア活動
日本テレビ「News Zero」、テレビ朝日「たけしの家庭の医学」、ベネッセ、小学館冊子記事掲載、東京新聞掲載、SONPOひまわり生命保険株式会社(トレーニングエクササイズ提供)、テルモ株式会社(トレーニングエクササイズ提供)
●扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya)
大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。
●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー
公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)