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柏崎真由子「お能ののの字〜 舞台から観る能楽散歩」 第二回 緊張の正体
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金春流のシテ方である柏崎さんが、演者として身ひとつで舞台に立つ側から観た、お能のあれこれを綴ります。
連載の第二回目は「緊張について」です。緊張は誰もが経験し、誰もがその対処に苦慮するもの。観るー見られるの関係性から生じる緊張を、能楽師はどのように処しているのか。緊迫感あふれる描写が続きます。
柏崎真由子 「お能ののの字〜舞台から観る能楽散歩」
第二回 緊張の正体
文●柏崎真由子
緊張は前夜から始まる
私がはじめて「能楽師」として舞台に立ったのは、2012年の「円満井会定例(※1)」であった。能楽師として能を舞うということは、玄人として能を舞うということである。
(※1)金春流の中堅能楽師を主軸とした定期演能会。年に4〜5回、矢来能楽堂にて開催。
私の肩に「玄人」の二文字が重くのしかかる。素人と違うのは、チケットをご購入頂く、すなわちお金を払って私の能をわざわざ観に来てくださるということである。本当に恐れ多いことだ。
神楽坂の住宅街に静かに溶け込む矢来能楽堂は、厳しい表情で私を迎えた。前夜は全く眠れなかった。楽屋に入り、先生方にご挨拶をする。紋付き袴に着替えると、演能(えんのう)の準備に当たる。
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