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ばらいろのほほ

「また、めがさめた」
 昼かよるかわからないひかりのなか、鉛いろのくうきが漂う。
 煮詰めたような重さが目にしみて、こっこくとねむり続けてはふと這いだし、水道のみづ飲みまたもぐる。つけっぱなしのテレビからはワイドショーのあかりもれ、にぎやかかつものものしい声がみみにとどいた。つよいひかりの画面をみつめながら、うつろにひびく裂けゆく身体は、今日もおきあがることに抵抗する。みどり色のまほうの飲み物、ユニコーン色の雲をうつした光が、いつかのシーツにながれでる。いつまでも、けだるく脈、弱く、ひかりを遮った部屋のなかは、うす暗くのうがくるう。スマホのなかの写真をくりかえし、くりかえし、やがて、ねむりの分子がしんしんと堆積しはじめ、まぶたがよるべなくとじていった。
「また、めがさめた」
 なつかしいいがぐりぼうずのアニメがらんらんとなりひびいている。全身のちからをこめておきあがり、たえだえとトイレにたどりつき、尿をだす。体温がうばわれる。身体がふるえる。夜ぢゅう、夜中ぢゅう、じっと誰かがそばにたっているから、慄えてかたくなにめをとじた。起きたらなんてことはない、正体はつるしたままの喪服。しらっぽい光がひえびえとうかぶ。もう何日も横になっている。外に出たのはいつだっけ。
「「めをさまし、めをつむり、ただ、ねて起きるだけのひび」」
 すっぱいみそ汁がぶきみに舌をけいれんさせ、細胞がひとつひとつ、灰いろになってゆく。あなぐらには、一房百円の腐れたバナナつぶるるてあり。はらがへったが、たべる気せず、そしてまた眠る。もう、めざめなくてもかまわないのに。
(ジジババがさびしがって、つれてったんかね)
(そうかもしれんなあ)
 ポテトサラダをつまみながらビールをあおる喪服のひとびと、天ぷら、すし、煮物がならぶ長卓、オードブルも華やかに彩りをそえた。あちこちでビール、ウーロン茶、オレンジジュースが空になり、あから顔の面々は口々に惜しむ言葉をはしらせる。
(早かったなあ)
(だなあ)
(これからだったのに)
(ほんとうに)
 卓上のいくらが赤くほのびかる。
──この物語はフィクションです。
 めがさめたら、数十年前のなつかしいドラマうつり、めつきのするどい刑事は人情派。いっときの無音、ことばがきえた、だけどほとんど気づかずすぎる。この俳優はもういない、みんな、みんなしんでしまう。えんえんとスマホをスクロールする深いよる。
──この物語はフィクションです。
 したり顔のアナウンサー、いぶかしむコメンテーター。十四歳の少年が警察官三名、市民一名を射殺して捕まった海外の事件。なぜ、なぜ、事件はおこったのか、ながれる雲のひだとらえ、やぶれた雲はしらじらと輝き、大量の白い花が捧げられる。情状酌量、ひるのワイドショー。
 まだあどけない薔薇色の頬をもつ少年の写真。

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