hozumi

断片的な文章を載せています。(断片集にて) それと尻尾も。

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つぶるるバナナ

 部屋は、いつでもいつまでもうす暗い。  すぐとなりのマンションのせいで、かすかな日光しかとどかず、それでいてよるは非常灯がこうこうとともり、いつでも、いつまでも夜明けか日暮れほどのほのくらさがつづいている。  くるう時計。身体もやがて針がずれてゆき、今がひるなのか、よるなのか、わからないまま、うす明るいような、うす暗いような部屋のなか、テレビからは異国のドキュメンタリー映像がながれていた。目のおおきな婦人の泣き顔。  葬式からかえってきた景子は、翌日からいつもと変わりなく会

    • 短歌の昇華 #2【生活】

      【生活】 身ぬちよりわきいずるかなみじめさよライトダウンのかたまりを見て なっとうさえまぜる元気もこかつして最近ずっとふりかけごはん 高揚し打ちひしがれてほとばしりそしてまたすぐつまらなくなる 焼きつくせちぢれたひかり砕けちるすべて忘れて死んで生きてく 髪の毛の海と化したり我が部屋で髪にまみれたペットボトルは 皮膚つまむあふれださない不思議さよペットボトル見て吐き気こみあげ 整体で身体触(ふ)れられ水得たり細胞どもが色をとらえて 菜箸についたひじきをたたきお

      • 短歌の昇華 #4【だれかのこと】

        【だれかのこと】 うちよせり心に皮膚にうちよせり感受かわしていだきあいたり まっぴるま日につつまるるはだとはだ尿(しと)から生まれししみったれたあい おもむろに取りだしたるはまたたく毛君がほとの毛だいじだいじに きらめく毛だいじだいじにお守りの小袋へいれとほくちかくに 黒黒としげるほとの毛その中に白きひとすじみつけて君は トイレからうなだれいでて君はいうわがほとの毛に白き毛ありし ひとすじのまたたきだった君の毛の今やいくすじつのぐみ照れり たいようの口づけあび

        • 短歌の昇華 #3【通勤・オフィス】

          【通勤・オフィス】 タタラタタぶだうのつるに雨ならびかがやかな世界横目ですぎる 花ぺディアたる母思い暗唱すサザンカツバキケイトウコキア 春がきた!春がきたよと二月の蝶ベルベットの翅そっとつまんで 春がきた!春がきたよと舞いはじめこがらしの中死にたりし蝶 夏の夜に黒黒ひかりこんばんは華麗なタップをわれとおどらん ビルの間にすずめトトトとダイアゴン ヘドウィグたりかヘドウィグたらん ただひとつ注意したらばHP(エイチピー)マイナス百のわがみたま「弱(よわ)!」 怒

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          短歌の昇華 #1【子供時代】

          【子供時代】 鼻歌が耳とこころをつんざいてちひさなわたし裂けゆくわたし 水道と食器の音と鼻歌とテレビのお笑いピンとはりつめ 耳ぬちに母の鼻歌ささる夜ふるえるこえに身を固くして 母の歌あるいてこないしあわせはたましひしんしんチータのマーチ 腹ばいで兄とみたかなしんきろうかがよひ逃げる死んだリキ追ひ をさなき日いくらの権利われにあり父も好物と今さら知れり オトウシャンまくらどうじょとざぶとんを幸せだなあとにやけた顔で 外食といえば安いラーメンでそれでも安いのえらぶ

          短歌の昇華 #1【子供時代】

          ぷち、ぷち、ぷちと花の首がとんでゆく。 足元には、首をもがれた花が落ち、絨毯のように

           ぷち、ぷち、ぷちと花の首がとんでゆく。  足元には、首をもがれた花が落ち、絨毯のようにあふれだしそう。くさいくさいとののしられ、やきつくせよ、花と共に。小さな手をふったのは、赤くひかる川のむこう。  幸男は走った。なにかを振り払うかのように、走って、走って、にげた。もどかしく、いつまでもこびりついて離れない、きもちわるい、とらわれている、得体のしれないものが、皮膚の中までしみこんで、細胞のひとつひとつまで浸透している。かきむしっても、かきむしっても、とれないシミ。はしれば、

          ぷち、ぷち、ぷちと花の首がとんでゆく。 足元には、首をもがれた花が落ち、絨毯のように

          ばらいろのほほ

          「また、めがさめた」  昼かよるかわからないひかりのなか、鉛いろのくうきが漂う。  煮詰めたような重さが目にしみて、こっこくとねむり続けてはふと這いだし、水道のみづ飲みまたもぐる。つけっぱなしのテレビからはワイドショーのあかりもれ、にぎやかかつものものしい声がみみにとどいた。つよいひかりの画面をみつめながら、うつろにひびく裂けゆく身体は、今日もおきあがることに抵抗する。みどり色のまほうの飲み物、ユニコーン色の雲をうつした光が、いつかのシーツにながれでる。いつまでも、けだるく脈

          ばらいろのほほ

          あかおに

           よごれたひざ小僧をハンカチでぬぐおうとしたその時、ビュッと強いからっ風が突然ふき、幸尾の手からハンカチがざぁーっと飛んでいった。  いそいで辺りを探してみるもみつからない。河原には歯抜けのように、幸尾の背丈くらいの細い草もたくさん生えており、泣きたい気分で草をかき分けて探していると、遠くの方からかすかに(おーい)とよぶ声がきこえた。顔をあげると、川向こうの草の中から「おーい」と子どもが手をふっていた。おおきくふられた手には、幸尾のハンカチがにぎられている。  幸尾は立ちあが

          あかおに

          二月の冬の日のちょうちょ

           つぎにちょうちょが死んでたらちゃんとお墓を作ろうと決めていた。なんという制約を自分に課してしまったんだろう。のちに後悔することになる。  二月の土曜日、カフェへ行こうと外へ出たら(八時のモーニングへ行こうか迷って延ばして延ばした挙句、午後二時過ぎに出かけた)  最初の門を曲がって少し歩いた道端にちょうちょが死んでいた。  鮮やかな黄色いと黒と赤のアゲハチョウだ。この二月に?信じられなかった。  だから最初は、おもちゃもしくはいつの日かと同じようにシールだと思った。でも違っ

          二月の冬の日のちょうちょ

          東京に出てきて十年近く経とうとしていた頃、田舎から

           東京に出てきて十年近く経とうとしていた頃、田舎から一通の電報が届いた。その時、丁度私は金属部品の研磨をしかける所だった。金の卵として田舎を出た後、私は金属加工の工場で働いていた。十年間、毎日ねじを作りながら、ねじのように働くのは大変素晴らしかった。私は、ねじになりたかった。円柱の金属部品に螺旋状の溝をつける作業をしながら、いつも私はねじと一緒に溶けて同化していくような心地いい気分になった。ねじに、なりたかった。私はねじになりたかった。何も考えず、何も苦しまず、何も辛くない。

          東京に出てきて十年近く経とうとしていた頃、田舎から

          残された子供達は、彼等だけで生きていくほかなかった。

           残された子供達は、彼等だけで生きていくほかなかった。  母親が出て行ったのは、末弟の幸尾のせいなのだ、そうやって兄と姉は罵った。鈍臭く馬鹿で異端な小さい弟が捨てられただけで、我々が捨てられたのではない。責任はお前だけにある。そう口に出す事で、絶望へ堕ちるのを必死に止めた。悲劇に意味を与えなければ、受け止める事などできなかった。兄と姉の弟への仕打ち。それは、仕方のない事なのだろうか。悲劇を背負えば、何をしても許されるのか?それは誰も教えてくれなかった。幸尾は常に尻に痛みを感じ

          残された子供達は、彼等だけで生きていくほかなかった。

          封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、

           封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、その場でクルクル回った。お礼の言葉を知らなかったのだ。しかめ面だった女将はやっと少し笑って 「いいから、早くおかえり」  と、追い払うような手の仕草をつけて言った。  幸尾はゆっくりと歩き出す。米の存在、その重みを感じながら、ゆっくりと動き出す。陽が傾きかけていた。西の山へ隠れつつある太陽は、来た時とは違う日差しを田んぼへ注ぎ、田園風景を更に濃い黄金色に変えていった。チャパチャパと金の粉が舞い立

          封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、

          あばれる

          また あばれてしまって しんやにじ のうみそあふれて あばれるくん かべがへこんだ あばれるさん サイヤじんのように 怒りをおさえて とめどなく あふれて あふれて あふれて あばれたちゃん

          あばれる

          プリンアラモード

          プリンアラモード 夢見たままが幸せだった プリンアラモード 焦燥感を感じて自己嫌悪に陥って ああどうしよう、 なんてやってたくらいが心地よかった プリンアラモード なぜなら知った 一握の砂 知りたくなかつたプリンアラモード夢見たままが幸せだった

          プリンアラモード

          犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の

           犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の光が明るかったからかもしれない。白く射すような光線が一直線に強く、納屋に向かって差し込んでいた。なぜかいつもより暖かく、しんと静かな夜だった。幸尾はむくりと体を起こすと、窓から外をのぞいた。すると、そこには一面の真っ白な世界が広がっていた。新雪に反射した月明かりがキラキラと夜を照らしていた。尋常ではない明るさだ。こんなに明るいというのに、父も母も、兄も姉もぐっすり眠っている。幸尾は、月明かりと雪景色に

          犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の

          雪を含んだ風が、山から冷たく吹き付ける。足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。

           雪を含んだ風が、山から強く吹き付け、足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。幸尾の足先は寒風にさらされ冷たさで傷んだ。野良犬が一匹、木の幹に向かって腰を振っていた。 「わかる、僕わかるで」  父親が何を言いたかったのか、幸尾はよくわからなかったが、元気良くそう答えた。 「よしゃ、幸ちゃんはええ子だなあ。さっすがおらの子だあ」  父はすっとんきょんな声を出して言った。ビュッと風が一段と強く吹きつけた。幸尾は父の首元に深く顔をうずめた。首にかけられた父の手ぬぐいが鼻に

          雪を含んだ風が、山から冷たく吹き付ける。足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。