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断片集

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#お通夜

いくらの権利

 座敷を二間あけはなした和室には、惣菜、寿司、ポテトサラダ、畳のいぐさ、アルコール、タバコの煙など、さまざまなにおいが人の体温であたためられ、蒸発し、まざり、よどみ、ほとんどの弔問客が帰った今でも、ずっと沈殿し残りつづけていた。  蛍光灯のしろいひかりの下、皿をかたづけるためすこしずつ残った料理がいっかしょにあつめられ、喪服のおんなたちがひと息つく時間。  寿司ネタはだいぶかたよったラインナップとなったが、いか、まぐろ、かっぱ巻き、いなり寿司が多くそろい、いくら、サーモン、青