【医師論文解説】鼻ポリープ撃退!? メポリズマブの臨床成績が明らかに【OA】
背景:
慢性鼻副鼻腔炎(CRS)は、鼻腔と副鼻腔の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす疾患です。
特に鼻ポリープを伴うタイプ2炎症優位のCRS(CRSwNP)は、従来の治療に抵抗性を示し、患者のQOLを著しく低下させる難治性疾患として知られています。標準治療である局所ステロイド薬や内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を行っても、再発率が高いことが大きな課題でした。
メポリズマブは、タイプ2炎症の主要なメディエーターであるIL-5を標的とする生物学的製剤です。これまで重症喘息などの治療で使用されてきましたが、最近CRSwNPに対しても適応が承認されました。本研究は、実臨床におけるメポリズマブの有効性と安全性を評価することを目的としています。
方法:
本研究は、2021年1月1日から2023年5月31日までに大学病院を受診した18歳以上のCRSwNP患者を対象とした後ろ向き研究です。
対象患者は、EPOS2020ガイドラインに基づく生物学的製剤の処方基準を満たし、メポリズマブ100mgを4週間ごとに皮下投与されていました。
評価項目として、以下のスコアを治療開始前と12ヶ月後で比較しました:
SNOT-22(鼻副鼻腔炎症状スコア)
NPS(鼻ポリープスコア)
mLKS(修正Lund-Kennedyスコア)
SSIT(嗅覚同定検査)
嗅覚VAS(視覚的アナログスケール)
LMS(Lund-Mackayスコア、CTでの副鼻腔陰影評価)
喘息患者ではACTとACQ-5も評価
また、救済治療としての全身性ステロイド使用やESSの必要性、有害事象についても記録しました。
結果:
患者背景:
27名が研究に登録(男性51.9%、女性48.1%)
平均年齢57.7歳(27-79歳)
92.6%が気管支喘息を合併(77.8%が重症喘息)
51.9%がアレルギー性鼻炎を合併
70.4%が過去にESSを受けていた
臨床スコアの改善:
SNOT-22: 58.6 → 25.7 (p < 0.005)
NPS: 5.6 → 3.0 (p < 0.001)
mLKS: 6.6 → 3.6 (p < 0.001)
LMS: 12.8 → 6.5 (p < 0.05)
嗅覚の改善:
SSIT: 5.0 → 9.6 (p < 0.001)
嗅覚VAS: 9.6 → 5.2 (p < 0.001)
無嗅症患者の割合: 81.5% → 44.4% (p = 0.005)
血中好酸球数の減少:
800.00 → 85.23 cells/μL (p < 0.001)
喘息コントロールの改善:
ACT: 17 → 23.5 (p < 0.001)
ACQ-5: 2.2 → 0.4 (p < 0.001)
サブグループ解析:
NERD(アスピリン不耐症)患者は嗅覚の改善が有意に低かった
性別、年齢、喫煙歴、喘息・アトピーの有無による有意差なし
ESS後12ヶ月以内にメポリズマブを開始した患者でより良好な傾向
安全性と治療継続性:
重大な有害事象なし
2名(7.4%)が効果不十分で治療中止
議論:
本研究結果は、メポリズマブがCRSwNP患者の臨床症状、内視鏡所見、CT所見を有意に改善することを示しています。特筆すべきは嗅覚の改善で、無嗅症患者の割合が半減しました。これは患者のQOL向上に大きく寄与する可能性があります。
NERD患者で嗅覚改善が乏しかった点は興味深く、持続的な組織炎症や嗅覚中枢の機能的変化が関与している可能性が考えられます。一方、ESSとメポリズマブの併用タイミングが治療効果に影響する可能性も示唆されており、今後の治療戦略を考える上で重要な知見です。
安全性プロファイルも良好で、92.6%の患者が1年間の治療を完遂できたことは、実臨床での使用可能性を支持する結果といえます。
結論:
メポリズマブは、難治性のタイプ2 CRSwNP患者に対して安全かつ有効な治療選択肢となる可能性があります。特に血中好酸球数が高値の患者や、手術適応のない患者に有用と考えられます。今後、より大規模で長期的な研究が必要ですが、本研究結果はCRSwNP治療の新たな展開を示唆しています。
※注意:
この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。具体的な治療や生活習慣の改善については、医師に相談してください。
参考文献
Orlando P, Vivarelli E, Minzoni A, et al. Effects of Mepolizumab in the treatment of type 2 CRSwNP: a real-life clinical study. Eur Arch Otorhinolaryngol. Published online October 15, 2024. doi:10.1007/s00405-024-09027-8
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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