【医師論文解説】うつ症状に効く!?週末の寝だめの意外な効果【Abst.】
背景
現代社会では、睡眠不足が常態化しており、睡眠制限に関連する様々な障害が増加しています。多くの人々が平日の睡眠不足を補うために、週末に睡眠時間を延ばす「週末の寝だめ」(Weekend Catch-up Sleep: WCS)を行います。これがうつ症状に与える影響については、これまでの研究で一貫した結果が得られていません。例えば、韓国の研究ではWCSが不安やうつのリスクを減少させると報告されていますが、中国の研究では逆にうつ症状が増加するとの結果が出ています。このように異なる結果は、対象とする人口の違いによるものと考えられます。アメリカの成人を対象にした研究は少なく、その影響を明らかにするためには、アメリカ人を対象とした全国的な調査が必要です。
方法
本研究は、2017年から2020年にかけて実施された国民健康栄養調査(NHANES)から7,719人の参加者を対象にしています。参加者の睡眠時間とうつ症状に関する情報は、自己申告による質問とPHQ-9スコアを使用して評価されました。WCSは、週末の睡眠時間から平日の睡眠時間を引いた時間で算出され、WCS時間が0時間以上の場合を「寝だめ」と定義しました。回帰分析を用いて、WCSとうつ症状の関連を評価しました。
結果
完全に調整された多変量ロジスティック回帰モデルでは、WCSとうつ症状のオッズ比は0.746(95%信頼区間: 0.462~1.204; P = 0.218)、PHQ-9スコアの変化は−0.429(95%信頼区間: −0.900~0.042; P = 0.073)であり、有意な相関は見られませんでした。しかし、WCSの持続時間とPHQ-9スコアの関係はL字型を示し、持続時間が0~2時間のWCSのみがうつ症状やPHQ-9スコアと統計的に有意に関連していました。サブグループ分析では、男性、65歳未満の成人、および平日の睡眠時間が短い人々で、WCSとうつ症状の負の関連がより強く見られました(相互作用のP < 0.05)。
論点
本研究の結果は、適度なWCSがうつ症状の発生率の低下と関連していることを示唆していますが、横断的デザインであるため、因果関係を確定することはできません。今後、縦断的研究を通じて、WCSとうつ症状の因果関係をより詳細に解明する必要があります。また、自己申告による睡眠時間とPHQ-9スコアの評価には、報告バイアスが存在する可能性があるため、客観的な測定方法を用いた研究も求められます。
結論
本研究は、適度な週末の寝だめがうつ症状の減少と関連している可能性を示しています。特に、男性、65歳未満の成人、および平日の睡眠時間が短い人々において、寝だめの効果が顕著であることが確認されました。今後の研究では、因果関係の解明とともに、どのような条件下で寝だめが最も効果的であるかを明らかにすることが重要です。
文献
Luo, Zhicheng et al. “Association between weekend catch-up sleep and depressive symptoms in American adults: Finding from NHANES 2017-2020.” Journal of affective disorders vol. 354 (2024): 36-43. doi:10.1016/j.jad.2024.03.008
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所感
この研究は、週末のキャッチアップ睡眠がうつ症状の減少と関連していることを示しており、臨床的に重要な知見を提供しています。特に、適度なWCSが有意な効果を持つことは、患者への具体的なアドバイスにつながる可能性があります。ただし、因果関係の確定には、さらなる縦断的研究が求められます。
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