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【ノーベル生理学・医学賞2024医師解説2/3】遺伝子の"時計"を解明 - たった22塩基のRNAが生命の時を刻む【OA】
背景:
線虫(C. elegans)の発生過程では、細胞の運命が時間的に厳密に制御されています。
この時間制御を担う重要な遺伝子としてlin-14が知られており、その発現量は幼虫期の進行に伴って段階的に減少します。この制御の破綻は発生異常を引き起こすため、lin-14の時間的制御メカニズムの解明は発生生物学における重要な課題でした。
方法:
野生型およびlin-14変異体の各発生段階におけるタンパク質・RNA量の定量
レポーター遺伝子を用いたlin-14 3'UTRの機能解析
近縁種C. briggsaeとの比較ゲノム解析
lin-4 RNAとlin-14 mRNA間の相補性解析
結果:
Lin-14タンパク質の時間的制御:
野生型では幼虫期L1からL4にかけてLin-14タンパク質量が10分の1以下に減少
この減少はmRNA量の変化を伴わない翻訳後制御
lin-4変異体ではこの減少が見られない
3'UTRの機能解析:
lin-14の3'UTRをレポーター遺伝子に結合させると同様の時間的制御が再現
この制御にはlin-4が必要
高コピー数のトランスジーンでも制御が維持される
分子メカニズムの解明:
lin-14の3'UTRには7つのlin-4 RNA結合配列を同定
これらの配列は種間で高度に保存
結合配列の一部欠失により時間的制御が破綻
議論:
研究チームは、lin-4 RNAが複数のサイトでlin-14 mRNAと結合し、協調的に翻訳を抑制する新規の制御メカニズムを提唱しています。この制御は転写レベルではなく翻訳レベルで起こり、複数の結合サイトの存在が精密な時間制御を可能にしていると考えられます。
結論:
生物の発生における時間制御が、小さなRNAによる翻訳抑制という新しいメカニズムによって達成されていることが明らかになりました。
文献:Wightman, B et al. “Posttranscriptional regulation of the heterochronic gene lin-14 by lin-4 mediates temporal pattern formation in C. elegans.” Cell vol. 75,5 (1993): 855-62. doi:10.1016/0092-8674(93)90530-4
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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用語解説:
3'UTR: メッセンジャーRNAの翻訳されない3'末端領域
lin-4: 22塩基長の小さな制御RNA
翻訳後制御: タンパク質の合成や分解を制御するメカニズム
所感:
本研究は、その後のマイクロRNA研究の先駆けとなった記念碑的な論文です。複雑な生命現象が小さなRNAによって制御されているという発見は、当時の分子生物学に大きなパラダイムシフトをもたらしました。特に、複数の結合サイトによる協調的な制御という概念は、現代の遺伝子発現制御の理解に重要な示唆を与えています。
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