【医師論文解説】睡眠時無呼吸の扁桃手術、成功の鍵は鼻と舌?最新研究が示す驚きの結果【Abst.】
背景:
小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の治療として、アデノイド扁桃摘出術(AT)が広く行われています。
しかし、手術後も20〜30%の子どもたちでOSAが持続するという報告があります。この研究では、手術時に行う薬剤誘発性睡眠内視鏡検査(DISE)が、ATの主観的な治療効果を予測できるかどうかを調査しました。
方法:
この前向きコホート研究では、睡眠障害呼吸(SDB)に対してATを受ける2〜18歳の子どもたちを対象としました。特に、AT失敗のリスク因子(7歳以上、肥満、重度のOSA、黒人)を1つ以上持つ子どもたちに焦点を当てました。全ての参加者は手術時にDISEを受けました。
主観的なAT治療効果の予測因子として、年齢、性別、肥満、DISEパターンを検討しました。術後の小児睡眠質問票(PSQ)とOSA-18質問票のスコアを予測するため、多変量線形回帰分析を用いました。
結果:
対象者:
194人の子どもから術前・術後のPSQ/OSA-18の回答を得ました。
平均年齢は9.3±3.5歳
59%が肥満
50%が女児
67%が白人
手術効果:
PSQスコアの平均値: 0.60±0.19 → 0.28±0.22 (p < 0.001)
OSA-18スコアの平均値: 66±21 → 37±18 (p < 0.001)
閉塞部位の頻度:
扁桃: 92%
鼻腔: 77%
アデノイド: 64%
軟口蓋: 65%
多変量回帰分析の結果: 以下の因子が、より悪い治療効果と関連していました。
肥満
男性
多層性閉塞(特に鼻腔と舌根部の閉塞が扁桃・アデノイド閉塞に加わる場合)
議論:
この研究結果は、ATの治療効果を予測する上で、DISEが有用なツールとなる可能性を示しています。特に、肥満、男性、多層性閉塞(鼻腔と舌根部を含む)が、術後のOSA症状の持続と関連していることが明らかになりました。
これらの知見は、手術前のリスク評価や、術後のフォローアップ計画の立案に役立つ可能性があります。例えば、これらのリスク因子を持つ患者に対しては、より慎重な経過観察や追加的な治療介入を検討する必要があるかもしれません。
結論:
この研究対象集団では、AT後もOSAの症状が持続するケースが多く見られました。DISEによって観察される肥満、男性、多層性閉塞(特に鼻腔と舌根部を含む)が、より悪い主観的治療効果と関連していることが示されました。
文献:
Lam, Derek J et al. “Drug-Induced Sleep Endoscopy Predicts Subjective Outcomes of Adenotonsillectomy.” The Laryngoscope, 10.1002/lary.31704. 21 Aug. 2024, doi:10.1002/lary.31704
この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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用語解説
DISE
は、薬剤によって人工的に睡眠状態を作り出し、その間に上気道の様子を内視鏡で観察する検査法です。自然睡眠時の上気道の状態を再現することで、閉塞性睡眠時無呼吸の原因となる閉塞部位や閉塞のパターンを特定することができます。この検査は、睡眠時無呼吸の診断や治療方針の決定に役立ちます。
PSQ: Pediatric Sleep Questionnaire
は、子どもの睡眠関連の問題を評価するために広く使用されている質問票です。保護者が子どもの睡眠習慣や睡眠中の行動について回答します。質問は「はい」か「いいえ」で答え、「はい」の回答が多いほど睡眠障害のリスクが高いと判断されます。特に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)のスクリーニングに有用とされています。
OSA-18
は、小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に特化した生活の質(QOL)評価ツールです。18の質問項目から構成され、睡眠障害、身体症状、情緒面の問題、日中の問題、養育者の心配の5つの領域を評価します。各質問に対して1(全く問題ない)から7(非常に大きな問題)までの7段階で回答し、合計スコアが高いほどQOLへの影響が大きいと判断されます。
これらのツールは、小児の睡眠障害、特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の評価と治療効果の判定に重要な役割を果たしています。
所感:
この研究は、小児OSAの治療において重要な知見を提供しています。特に注目すべき点は以下の通りです:
DISEの有用性: 手術時に行うDISEが、AT後の治療効果を予測する有用なツールとなる可能性が示されました。これは、個々の患者に対するより精密な治療計画の立案に貢献する可能性があります。
多層性閉塞の重要性: 扁桃やアデノイドだけでなく、鼻腔や舌根部の閉塞も治療効果に影響を与えることが示されました。これは、ATだけでなく、他の治療法の必要性を示唆しています。
肥満の影響: 肥満が治療効果に負の影響を与えることが改めて確認されました。小児OSAの管理において、体重管理の重要性を強調する結果となっています。
性差の存在: 男児の方が治療効果が悪いという結果は興味深く、性ホルモンや解剖学的差異などの要因が関与している可能性があります。
今後は、これらの知見を臨床現場でどのように活用していくか、また、リスク因子を持つ患者に対する追加的な治療戦略の開発が課題となるでしょう。さらに、より大規模な多施設研究や長期的なフォローアップ研究によって、これらの結果の一般化可能性を検証することも重要です。