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【3】『メッシュ』――1980年初頭に、ジェンダーの揺らぎを徹底的に描いた舞台裏

1981年から発表された『メッシュ』は、華やかなパリを舞台に、中性的な美少年メッシュと、贋作画家の青年ミロンとの出会いから紡がれていく物語です。“父親に愛されなかった”というトラウマを克服できずにいるメッシュのストーリーを中心に、異性装やジェンダーの揺らぎなど、魅惑的なエッセンスがふんだんに詰まっています。根強いファンを持つこの作品を萩尾さんが創作した背景に、溝口さんが迫ります。

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『メッシュ』におけるファッション、異性装、ジェンダーのゆらぎ

溝口 ここからは、1981年から84年にかけて連載された『メッシュ』に触れていきたいと思います。ストリートのチンピラ、メッシュ( 16歳)。彼がマフィアからリンチにあってダウンしているところを、画家のミロン(23歳)に拾われるところから始まるお話です。読み直してみて、「ミロンってそんなに若かったんだ!」とびっくりしました(笑)。

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『メッシュ』(小学館、1981年) 

溝口 メッシュは、裏社会のドンで大金持ちの跡取り息子だけど、家出をしてチンピラになっています。映画『マイ・プライベート・アイダホ』(ガス・ヴァン・サント監督、1991年)に重ねると、キアヌ・リーブス演じるスコットのほうで、リバー・フェニックス演じるマイクのほうではない。スコットの父親は裏社会とは関係ないですが。たんに好きな映画なので連想しましたが(笑)、もちろん『メッシュ』の発表のほうが10年早いです。

「愛されなかった」という理由で父親に対して愛憎を感じているメッシュは、第2話『ルージュ』で父親を撃ったところで、殺せはしなかったけれども、「父親を殺したい」という、最初から提示されている問題にはいったんケリはつきます。その後もミロンという、基本は気楽な同居人、かつ兄のような存在のもとで、メッシュが成長していくところが嬉しくて、大好きな作品でした。ミロンは小心者なところもある人間味のある人で、でもメッシュの危機的な状況では、まるで神様のような、無償で無限の愛でメッシュを包んでくれる。奇跡のような人です。

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『シュールな愛のリアルな死』より 
『メッシュⅡ 萩尾望都Perfect Selection 5』(2007年) 
©萩尾望都/小学館

溝口 『メッシュ』については、考察するポイントは3つに絞ります。ひとつめは、「ファッション、異性装、ジェンダーのゆらぎ」とでもいえるテーマです。こちらは『シュールな愛のリアルな死』から、ご近所のおばさまグレーテさんに借りたワンピースとジャケットと帽子で、パリの街を歩くメッシュです。

メッシュは、本名はフランソワーズ・マリー・アロワーズ・ホルヘスという女性名ですし、身体の線が細い、背丈もそこまでない美少年。切れ長で二重(ふたえ)で目力の強い、とても中性的な存在です。女装する場面も多いのですが、そのなかでこのシーンを選んだのは、ひとつはメッシュが珍しく自主的に女装しているシーンだということ。

もうひとつは全然次元が違う話なのですが、私、小学生のときにある百貨店で行われた萩尾さんのサイン会に参加したことがあるのですが、そのときに萩尾さんがかぶっていらっしゃった帽子がすごく印象に残っているんです。

萩尾 そうでしたか! そういう時代でしたよね。百貨店でね。

溝口 はい、アシンメトリーで、すごくモードな帽子を被っていらっしゃって、それがメッシュのこの帽子にもつながるようにも感じて。ご自身が着たいものもメッシュに着せることもあったのですか?

萩尾 はい、そうです。

溝口 即答していただきました(笑)。

ジェンダーをあらん限り曖昧にしちゃえ――『ブラン』『革命』

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『ブラン』より 
『メッシュⅠ 萩尾望都Perfect Selection 4』(2007年) 
©萩尾望都/小学館

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