見出し画像

レビュー「『資本論』について佐藤優先生に聞いてみた」

以前から気になっていたマルクスの『資本論』。

しかし岩波文庫の『資本論』は全9冊。

その多さにたじろぎ、なかなか手を出せないでいます。

そんななか出会ったのが本書で、知の巨人である佐藤優による、予備知識ゼロで『資本論』のエッセンスを味わうことができる入門書。

これから就活をひかえている高校生や大学生におって、会社やそこで働く人ががどういう論理で動いているかを冷静に見極める視点を授けてくれるはず。

すでに会社勤めしている人には、会社の洗脳がいかに自分たちを縛っているかを示してくれます。

本書の特徴は、1つのテーマが見開き2ページにまとめてある点。

イラスト付きなのでとっつきやすく、理解もしやすいので時間のない人にぴったりです。

具体的には、「どうして生活していくギリギリの賃金しかもらえないのか?」といった1つの質問に対して、解答、それに解説が見開き2ページに納められており、気になる質問だけをピックアップして拾い読みすることが可能です。

それにしても、150年以上も前に出版された『資本論』(1867年に出版)をいま読む意味はあるのでしょうか?

著者は、現代人が『資本論』を読むべき理由に「お金か命という選択で、命を選べるようになる」ことを挙げています。

『資本論』を読むことで資本家が、いかに労働者から労働力のみならず、心まで搾取しているかを理解することが可能。

嫌な上司になんで我慢して従わなければいけないのか?や、どうして毎日満員電車に乗って会社に出かけて、夜遅くまでクタクタになるまで働かなければいけないのか?といった身近な質問に答えてくれます。

さらに『資本論』を読むことによって、「人間らしい働き方が見えて」きます。

個人的に興味深く読んだのが、「やりがい搾取」について。

やりがい搾取とは、アニメやゲーム、さらには福祉介護、飲食、保育や教育といった業界で起きており、労働者が仕事にたいして感じる充足感を利用して、低賃金で必要以上に労働させることを指しています。

マルクスは、労働者が徐々に資本に取り込まれていく過程を「包摂(せっしゅう)」と呼びました。

包摂は「形式的包摂」と「実質的包摂」の2段階にわけることができます。

「形式的包摂」は自分の意思によって好きな時間に労働を行い、収入を得ることができます。

しかし会社に取り込まれることによって、「実質的包括」に移行します。

「実質的包括」とは、働き方や働く時間をすべて会社が決めるようになります。

「形式的包摂」の状態では、労働者は消極的にしたがっているだけ。

しかし「実質的包括」では、労働者は会社と協力して、資本の増殖に自ら積極的に加担していくことに。

やりがい搾取は、こうした会社にとって都合の良い労働者の心の在り方をうまく利用したものと言えます。

いままで読んできた資本論の入門書は、文字ばかりと味気ないものでしたが、本書は図やイラストが多様されていて分かりやすいです。

賃金もあがらず、ブラックな労働環境がはびこる世知辛い社会で、主体的かつ戦略的に生きる一助になるはず。

会社の巧妙なトリックを見抜くためにも本書は有用です。


いいなと思ったら応援しよう!

ホヴィンチ|本のダヴィンチになる
いいなと思ったらチップを贈って応援しよう!