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『わたしのはたらき』が示す、価値ある人生を生きるためのヒント

坂口恭平さん目当てで手に取った。

本書は、奈良の図書館に招かれた八名のゲストが、「仕事」や「働き方」をめぐって語り合うイベントの内容が本になったもの。

坂口さんはそのゲストのうちの一人だ。

本書では一貫して、自分自身を見つめ直すことの重要性、自分自身の価値観を把握することの必要性が語られる。

そして、人生の意味を見出すためには、自分自身に向き合い、自分自身のキャリアを積極的に考えることが大切であるということを強調している。

人生における意義を模索している人や、自分自身のキャリアについて考えている人、職場に不満を持っている人にオススメ。

読者は、八名のゲストの仕事論に触れ、自分自身の状況に置き換えて考えることができるようになっている。

人生において大切なことは、金銭や地位ではなく、自分自身が成し遂げたこと、自分自身が成長したことであるということを教えてくれる。

坂口恭平さんは以下のように語っていた。

「自分には可能性がある。けどそれを自分の身体で、この寿命の中で完全に解放することはできないだろう。だから遠回りをする時間はない。「近道してくれ」って。それはどうすればいいかというと、「明日死んでもいい」ということだけやればいい。才能を必ず毎日100%使ってくれ。油断しないで真剣にやれってことを、僕は誓ったんですよ。」

ことばの力強さに圧倒される。

スティーブ・ジョブズも「今日が人生最後の日だったら、今日やらなければいけないことを、本当にやりたいか?」と毎朝鏡のまえで自分に問うていたというが、それと似ていると思った。

また、坂口さんの判断基準の中に、「自伝に書けるかどうか?」という視点も面白かった。

「僕は自伝マニアで、あらゆる自伝を読むわけです。主に漫画ですけど。何が判断がいる時には、「お前それ自伝に書けんの?」と問う。「ガンジーそういう時、そんなことしてたっけ?」「してません」みたいな。僕は先人に従ってやっているんですよね。で、彼らは大抵10年は食えていない。これも先人の教えです。だから、そもそも食える食えないといった話じゃない。」

最後に、彼の芸術活動の内容も興味深く読んだ。

「最初はギャラリーに自分の描いた絵や作品をタダであげていた。するとそれを買うコレクターがいる。僕はあげているのでギャラリーは丸儲けになる。その代わりに、購入したコレクターの住所と電話番号を全部教えてもらって。片っ端から電話して直接会いに行ったり、彼らがジェット機で飛んできてくれて作品を売っているんです。たとえば1枚50万で10枚売って一年間で500万円稼いで・・・みたいな。半分芸術のふりをして、売り絵を描きている。」

本書の意外な収穫は、お目当ての坂口恭平さん以外の方々の発言も心にささったこと。

たとえば、ホールアース自然学校の創設者である広瀬敏通さんの以下の言葉。
 
「(中略)若い人たちには、ぜひ田舎や過疎地に行って仕事をつくって欲しい。とりあえず行って便利屋の看板でも掲げれば、まず暮らしていけます。」

「僕はなにかをするために「お金が必要だ」と考えたことは、これっぽっちもないです。牧場をつくった時も自然学校をつくった時も、お金なんてかけないでつくった。お金をかけずにどうしてできたかというと、自分という労働力があったからですり自分が動けばなにかができるんです。自分にはお金はかからない。食い物さえあれば。」

「日本人の社会で「お金が必要」になってきたのはこの数十年とか百年くらいの話で、その前はお金なんて一銭もない家が日本中にごろごろあった。でも死なない。大事なものじゃないですよね。生きる上では。過疎地に行けばいまの時代でも、お金を介在させずに暮らしている人がたくさんいる。」

「日本は稲作文化が長いこともあって、リスのようにモノをため込む。それが「お金」に切り替わった途端、実態がないから、いくらためても不安が生まれちゃうんでしょう。日本は沈んでゆく国だと大人も子どもも言っているけど、実際はとんでもなく豊かで、世界から見たらまだキラキラ輝いている国なんです。」

都会での生活に疲れた人や、お金中心の社会に違和感を感じてる人には、響くのではないだろうか。

お金への洞察の鋭さも興味深い。

ほかにも、建築家の中村好文さんが、 伊丹万作の本に「才能とは一つのことを愛しつづける能力のことをいうんだ」と書かれていたのを読み、「建築が好き、家具が好き」ということにかけては誰にも負けないと思っている、という話や、ミナ・ペルホネン代表の皆川さんは、「自分が次にやるものは、なんにせよ、一生やめない仕事にしよう」と考え、「“やめない〃ことだけ決めて、始めてみよう」と決めた話が興味深かった。

このような、「才能」や、「やめないこと」といったキーワードが飛び交い、自身のキャリア観にゆさぶりをかけてくれる。

まさに、『わたしのはたらき』は、キャリア開発の手引書というよりは、自分自身が持つキャリアの前提を疑う本だと思った。

本書を読むことで、自分自身に向き合い、自分自身の価値観をゆさぶることで、自分自身のキャリアを考えることができるようになる。

即効性はないが、より充実した人生を送ることができるようになるためには、この価値観への揺さぶりが必要だと思う。


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