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ブックオフの魅力の秘密『ブックオフから考える: 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』
1か月に1度は利用しているブックオフ。
いまさらブックオフなしの生活は考えられず、引っ越しをする際は、必ず近くにブックオフがあるかどうかを確認しているほどだ。
ブックオフの魅力は本が安いからというのはもちろんだが、自分がなぜそこまでブックオフに引きつけられるのかは分からなかった。
それをうまく言語化してくれたのが本書、『ブックオフから考える: 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』だ。
ブックオフの魅力をマジメに考察した社会学の本であり、ブックオフ愛にあふれた良書。
なんとなく性
著者はブックオフの特徴を「なんとなく性」と形容。
ブックオフの店には、明確な目的があるわけではなく、なんとなくそこに存在する商品が多く存在している。
ブックオフの買い取りは、古本の価格は見た目の綺麗さと、本の新しさって言うわかりやすい基準だけで決定するので、古書店のような目利きが介在していない。
これは「機械的買取」といえよう。
さらにブックオフの買い取りシステムは「出し切り」と呼ばれており、買い取った商品は、必ずその日のうちに加工して棚に並べている。
これらの「機械的な買取」と「出し切り」、さらには本や作家に詳しくない店員が「なんとなく」で陳列した機械的な空間が、本との偶然の出会いを生み出している。
さらにおもしろいのが、周辺住民から買い取った本がそのまま陳列されることにより、住人の嗜好がもろに反映された品揃えが生まれること。
これはブックオフ側の意図を超えたものであり、たとえば、東京中央線沿線のブックオフは、サブカルチャーや精神世界の本が豊富。
ほかにもブックオフ池袋サンシャイン60通り店では、アニメ関連の書籍が多く、富士山付近のブックオフでは富士山関連の本が多いということが発生している。
この予測不能なカオス的空間こそが、ブックオフの魅力だと著者は語る。
お客に押しつけないブックオフ
現在、日本には約800店舗のブックオフがあるという。
わたしたちの日常生活にすっかり溶け込んだブックオフの存在意義とは何か。
それは、お客が本の購入を押しつけられない、「気分が落ち着く空間」になっているからだ。
反対に新刊書店には、本を売りたいと言う欲望が満ち溢れている。
著者や出版社、そして書店の思いがうずまき、店内はギラギラとしたものを感じる。
それに比べると、ブックオフにはその押しつけがまったくない。
買い取られてきた本が、ただ機械的にならんでいるだけだ。
意図がなく、ある意味、無機質ともいえるそんな「何も押しつけない空間」というのは、広告があふれた現代では貴重で、確かに心地よさを感じる。
ただ以前は、寺田心さんの「ブックオフなのに本ないじゃ~ん」の店内放送を何度も聞かなければならず、その生意気さに聞くたびにイライラさせられていた。(寺田心さんは悪くないのだが...)
追いうちをかけるように流れる趣味の悪いBGM。
勝手な想像だが、こういった勘にさわる店内放送やBGMは、マンガの立ち読みで長時間滞在するお客に向けてのけん制なのではないだろうか。
最近は問題の店内放送もなくなり、趣味の悪いBGMも減ったので、心地よさが回復したように思える。
ブックオフの楽しみ方
本書ではじめて「#3000円ブックオフ」という遊びを知った。
3000円ブックオフとは、ブックオフで3000円分の商品を買って、その結果をTwitterで報告するというものシンプルなもの。
以下の記事に詳しい。
個人的な楽しみ方は、「110円と220円の棚しばり」で欲しい本を買うこと。
なぜ110円と220円の棚だけなのかというと、欲しい本が激安で手に入る喜びにまさるものはないからだ。
それに他の棚までじっくり見ると、2,3時間は軽く超えてしまうので、それだけで疲弊してしまう。
以下が、先日ブックオフで入手した本たちだ。
『必読書150』:柄谷行人さんや浅田彰さん、島田雅彦さんといった日本を代表する知識人によるオススメ必読書が紹介されている本。この本を220円の棚に見つけたときは手が震えた。しかも良品。
『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』:いままでずっと気になっていた本をやっと入手。110円也。
『複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』:「複雑系」という言葉は聞いたことがあっても、内容は詳しく知らなかったので手に取った本。ドキュメンタリーのようなので、ぼくでも読めそうかと思い110円で購入。
『THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本』:ルポが好きなので、著者のブレイディみかこさんは気になる存在。110円也。
『世界牛魔人』:ギリシャの元財務大臣の本。前著の『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』が経済の見方を変えてくれた本だったので、本書も気になり手に取った。センスあるジャケットもお気に入り。220円也。
『歴史の終わり〈下〉』:世界中で話題をさらった歴史書。上巻は持っておらず、もちろんまだ読んでいないが、下巻が売ってあったのでとりあえず購入。これが220円はヤバすぎる。意外な出会いに思わず顔がほころんだ。
『地下室の手記』:以前友人にすすめられた本。最近、ドストエフスキーがマイブームなので購入。110円也。
おわりに
なぜ人はブックオフに引き寄せられるのかを縦横無尽に議論する本書は、ブックオフを愛するすべての人にとって、満足のいく読書体験を提供してくれる。
出版史、都市論、社会学、路上観察学といった多様な分野の知見を駆使して書き上げられており、いままでにないブックオフ文化論となっている。
ブックオフには雑多な書籍が多数陳列され、ジャンルも豊富な売場は「なんとなく性」でなりたっており、本との偶然の出会いを提供。
そんなブックオフはもはや、本好きにとっては日常の一部であり、心地良い居場所でもある。
ブックオフの存在で廃業に追い込まれた古本屋もあるが、ブックオフは現在の社会に適応した企業であり、さまざまな楽しみ方を秘めている。
そんなブックオフをこれからも応援していきたい。
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