レビュー『百冊で耕す』
『三行で撃つ』の著者が放つ、独創的な「読書術」の本。
前作の書評にも書いたが、今回の続編も、近年まれにみる熱量をおびていた。
前作がライター向けだったのに対し、本書は読書の習慣を身につけたい人向けと、間口がぐっとひろくなっている。
百冊とは?
本書は小手先の読書テクニックを列挙している本ではない。
そもそも、タイトルにある「百冊」とはいったいどんな本を指すのであろうか。
本書の巻末に、著者による「百冊選書」が掲載されているが、この百冊さえ読めばいいというものではない。
本書の主眼は、自分自身にとっての「究極の百冊」を選ぶために、人生を費やして大量の読書を続けていこう、というもの。
さらには、武道の守破離のように、いずれはその究極の百冊さえも必要なくなり、「百冊の抜き書き帳」へと昇華させていくという過程も丁寧に描いている。
「読書という冒険」にあたらしい道筋をあたえてくれた。
古典との向き合い方
本書ではビジネス書は重視しておらず、古典至上主義となっているため、手っ取り早く情報や結果を得たいという人には向かない。
しかし、古典を読破するのは骨がおれ、途中で挫折してしまう危険性をはらんでいる。
そこで著者は、読み通すためのコツを教えてくれる。
まず、「社会科学は古いものから読む」というもの。
たとえば、哲学は過去の遺産の積み上げでなりたっており、過去の何かを批判する形で新しいものが追加されている。
つまり、過去のものから読んでいったほうが、比較的新しいものを理解するのに役立つ。
「マルクスを読むならヘーゲルを、ヘーゲルを読むならカントを、カントを読むならデカルトを」という著者の言葉が胸にひびいた。
そして、「目標をはっきりさせる」というのも参考になった。
読み終えてから、少なくとも内容を、親しい友人やパートナーに話し、面白いかもと思わせることがひとまずのゴール。
そのためには参考書を使い倒し、メモを作るといったテクニックも十分に教えてくれる。
読書エッセイとしても楽しめる
本書は「読むという行為について考え抜くことで、新しい己を知る」ためのエッセイでもある。
読書の効用とはなにか。
なぜわたしたちは読むのか。
勉強とは、孤独とは、愛とは、幸せとは、生きるとは一体どういうことか。
読書についての本だが、人間の感情や思考がテーマとなっている。
読むほどに、自分が鍛えられ、豊かになる読書。
その果てに自分が変わり、他者と世界を愛することができる。
著者の「読書とは、問いを、自分で言葉にできるようにする、遠回りの、しかし確実なトレーニングだ。」という言葉が印象的だ。
まとめ
本書は、重層的な読書家になり、本と共に生きていくための本。
本書を読めば、ネットニュースやテレビで情報収集するのがバカらしく思えてくる。
やはり紙の本での読書は最高だ!と胸を張っていえる本。
巻末の著者が選んだ「百冊選書」以外にも、本書には著者のおすすめのブックガイド本が多数紹介されており、飽きることがない。
そして無性に古典作品が読みたくなった。
あらためて、一生読書を続けていこうと思わせてくれる本だ。