レビュー『超・美術鑑賞術/お金をめぐる芸術の話』
美術鑑賞に王道はないと教えてくれ、自分なりの見方をすれば良いと背中を押してくれる本。
本書の特徴は、著者自身が芸術家だということでしょう。
鑑賞術
まずは著者独自の観点からの美術鑑賞術。
さまざまな作品を例にあげ、鑑賞のポイントを語っています。
ダ・ヴィンチと少年犯罪、ピカソとグルメ、レンブラントとプリクラ、といった組み合わせで論じ、美術鑑賞の敷居を思い切りさげてくれています。
特に参考になったのが「脳の初期化」というコンセプトで、すべての思い込みや知識を取り払り、日常感覚で絵を見るというもの。
そして、鑑賞は「おもしろければ間違っても良い」と読者を勇気づけてくれます。
ほかにも「美術鑑賞とは、ものごとのつながり方を考えることである」といった鑑賞術が9つ紹介されています。
芸術とお金の話
お金の話で例にだされているのがスポーツの大手マネジメント会社。
タイガー・ウッズやシャラポアといった、多くの有名スポーチ選手が所属している組織です。
そんなマネジメント会社の仕事は、選手の後援、広告、イベント、グッズ商品化などを手がけます。
こうしたマネジメント会社がいなければ、選手たちは試合や練習以外の作業に時間をとられて、世界で活躍することはできません。
美術の世界でマネジメント会社にあたる存在は大手の美術ギャラリー。
ギャラリーは著名な芸術家を多く抱え、サポートしています。
ぼくたちが手軽に世界の芸術家のアート作品を見ることができるのも、ギャラリーの存在があってのこと。
美術業界でも、世界で活躍するには個人の力ではなく、チームの力が必要という点に驚かされました。
著者紹介
著者は1951年に大阪生まれ、1985年、自らゴッホになった作品で美術界に登場。
以来、名画の登場人物や映画女優、歴史上の人物に扮するセルフポートレイトを次々に発表されている方です。
その代表作品であるセルフポートレイトですが、そもそも美大卒だった著者がデッサン力と画才のなさに自信をなくしたことが発端。
絵をあきらめて写真家をめざし、ひょんなことから写真を使った表現方法としてセルフポートレイトを編み出し、それが世に受け入れられた、という話が興味深かったです。
そんな著者が書いた本書は、個人的な美術体験にいざなう美術鑑賞の入門書。
名画と呼ばれるものの楽しみ方が分かります。