レビュー『世界一流エンジニアの思考法』
マイクロソフトでエンジニアとして活躍されている牛尾剛さん。
牛尾さんの著作である『世界一流エンジニアの思考法』がとても面白かったので、ご紹介。
本書は彼のまわりにいる一流エンジニアたちの思考法をまとめたもので、ソフトエンジニア必読といえる内容だった。
日本の「批判文化」が、日本のエンジニアの平均レベルが低い原因となっていることも明かされており、自身のレベルを上げたい人や、海外で活躍したい人にもオススメだ。
労働生産性が低い理由はメンタルモデル
ひとり当たりの労働生産性が低い日本。
その一番の原因は、「思考法」、「価値観」、「思い込み」といった人間の根底にある考え方(本書では「メンタルモデル」と呼ばれている)にある。
というのも、そのメンタルモデルがダイレクトに人間の行動プロセスを決定してしまうからだ。
優秀なエンジニアと普通のエンジニアでは、この根底のメンタルモデルが異なるので、当然考えるプロセスと行動の優先順位が違ってくる。
結果、「なんでかは理由は分からないけど、気がついたら差がついていた」ということになってしまう。
それでは、一体どのようなメンタルモデルが生産性向上に役立つのだろうか。
それを著者は、以下のように分かりやすくまとめてくれている。
「Be Lazy」怠惰であれ
怠惰というと仕事をサボるイメージがあるが、ここで使われている怠惰は全然違う。
それは、「最小の時間で最大限の効果を出す」ことであり、そのために「重要な仕事のみに集中」することを指す。
著者がアメリカでカルチャーショックを受けたのは、評価において「たくさん働く」ことではなく「インパクト」が重要視されていること。
つまり、「より少ない時間で価値を最大化する仕事をする」、「インパクトのあるものだけに注力しよう」というマインドが深く共有されている点だ。
「一番大事なこと」だけにリソースを投下するからこそ、生産性を高くたもつことができる。
これは言いかえると、「一番大事なこと以外を切り捨てる」ことを指している。
優秀なエンジニアにとって「優先順位」とは、10個のタスクがあった場合、一番重要な仕事を見極めてそのひとつだけをやること。
いかに思い切ってバッサリやめることができるか、ここでのポイントだ。
日本ではムダな資料づくりや会議などが積み重なり、なかなか仕事をばっさりと捨てることができない。
しかし、この「やることを減らすこと自体に価値がある」という視点は、「引き算の文化」を大事にしてきた日本人にとって相性がいいのではと思った。
ユーザーにとって価値があるものを正確に見極めて、それ以外のことは潔く「やらない」と割り切る勇気が重要だと教えてくれる。
成果を上げるための思考法まとめ
本書ではさまざまな思考法と仕事術と開示されているのだが、身に刻みたいと思ったものを下記に列挙する。
・時間を固定して、できることを最大化する
・「準備」と「持ち帰り」をやめて、その場で解決する
・手を動かす前に、頭を動かす
・試行錯誤は「悪」
・基礎の理解(コードの意図とその背後のアーテクチャの理解)に時間をかける
・Fail Fastの法則:挑戦・失敗・フィードバック・修正を速める
・マルチタスクは生産性が最低なのでやらない
・納期絶対神話を捨てる (現実的には納品スコープを減らす)
・楽に達成できるスケジュールにする
・1日4時間は自分の時間を確保する
・自分を1番大切にして、自分が幸せになる方向に選択する
・価値ある仕事に時間を費やす
・コミュニケーションは短く・簡潔に・素早く
・エキスパートへの質問を恐れない
・失敗しても批判せず、相手を否定しない
・フィードバックを歓迎する
・コントリビュート文化で「感謝」の好循環を生む
おわりに
著者の牛尾さんはアメリカにてAzure Funcstionsというクラウドサービスの開発チームに所属する自称「三流エンジニア」。
他のチームメンバー全員が生産性が高く、彼らと仕事するなかでの気づきを惜しげもなく公開しているのが本書。
本書を読めば一流のエンジニアの仕事術、思考法の数々を学ぶことができ、自分にもできると思わせてくれる。
スキルの差や能力の差が大事ではなく、心がけしだいで一流エンジニアに近づけると励ましてくれる内容だ。
仕事への取り組み方、姿勢、意識が変わる一冊になる。