レビュー『功利主義者の読書術』
優れた読書家になるためには、優れた読書家に学ぶのが必要です。
あまたの読書家のなかで個人的に私淑しているのが作家の佐藤優さん。
そんな佐藤さんが、資本主義の本質とは何か、人間の本性を見抜くテクニック、日本の閉塞状況を打破するための視点、といった10個のカテゴリーごとに2〜4冊の本を紹介し、読み解きが行われているのが『功利主義者の読書術』です。
幅広く選ばれた約30の書籍が紹介されており、読書好きにオススメしたい一冊。
紹介されている書籍は敷居も低く、とっついきやすいホラー漫画の『うずまき』が、難解とされる『資本論』の入門書として挙げられていたりします。
もちろん敷居の高い本も紹介(たとえばユルゲン・ハーバーマスとか、宇野弘蔵さんの本)されていますが、読み切るのが難しいと感じる本も、佐藤さんがエッセンを抽出してくれています。
なので、知的な水準が高い書物に興味はある人にもオススメです。
10個のカテゴリーと紹介されている本は、たとえば以下のようのものになります。
・資本主義の本質とはなにか:綿矢りさ「夢を与える」、伊藤潤二「うずまき」
・論戦に勝つテクニック:石原真理子「ふぞろいな秘密」や酒井順子「負け犬の遠吠え」
・実践的恋愛術を伝授してくれる本:高橋和巳「我が心は石にあらず」
・交渉の達人になるための参考書:ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」
・不況時代を生き抜く智慧:小林多喜二「蟹工船」
・世直しの罠に嵌らないために:山本直樹「レッド」
・人間の本性を見抜くテクニック:レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」「ロング・グッドバイ」
・沖縄問題の本質を知るための参考書:池上永一「テンペスト」
・再び超大国を目論むロシアの行方:ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」
・日本の閉塞状況を打破するための視点:「新約聖書」
構成としては、まずは各作家の人物や逸話紹介をまじえて本の大意を解き明かし、「功利主義的」に注目したい部分を解説。
そして、佐藤さんがテキストをいかに応用したのかを分かりやすく語っていいます。
たとえば「蟹工船」を「戦略的小説」とみる著者自身のスタンスを前置きし、なぜそう思うかを体験談をまじえて語られています。
知識や造詣が深いと、おもしろい見方ができるものだと刺激をうけ、佐藤さんの独特の視点を知ることができ勉強になりました。