人を支配するということ『奴隷のしつけ方』レビュー
キャッチーなタイトルでおもわず手にとってしまった本。
古代ローマ人の貴族むけに、いかに奴隷をマネージするかという内容で、現代のマネジメントとの共通点に驚かされた。
また本書は、表紙のゆるい感じとは裏腹に、内容はかなり硬派で、まじめに古代ローマの奴隷制について素人にもわかりやすく説明。
「奴隷」と聞くと、劣悪な環境で主人から酷使される存在で、ただただ悲惨なイメージだったが、本書によって奴隷制のイメージがくつがえされた。
古代ローマ時代の社会や文化について興味はある人はもちろん、経営者やマネージメントの仕事をしている人、そして、現状から抜け出したいビジネスマンにオススメだ。
マネージメントについて
本書は、ローマ帝国の貴族から見た奴隷制であって、まさに上から目線の奴隷観。
ゆえに、上に立つもののほうが優れているという大前提にたっている。
しかし、人の上に立つものは、自身の研鑽をおこたってはいけないとも諭している。
たとえば、「知ったかぶりをしない」、「奴隷を虐待して傷つくのは結局のところ主人」や、「主人は自身の徳でもって奴隷の徳を高め、奴隷に仕事をさせなくてはならない。」と、自らを戒めることが必要だ。
それに、奴隷たちのモチベーションを高めることも重要な仕事で、そのためには「いい働きに報いること」だと主張している。
具体的には、食事をよくし、いずれ自由になれると希望を持たせ、子供を持たせるといったことだ。
現代におきかえると、「給料をよくする」ということにまとめれそうだ。
とくに、適材適所についても、古代も現代も変わらないように思えた。
たとえば、声の大きい者を牛飼いに、背が高いものは鋤の柄に体重をかけることができ、ほかの作業よりも楽なので耕夫に、勤勉でやりくり上手な者には集中力と技能が求められる牧夫に。
「食事は奴隷たちと一緒に食べ、同じものを食べる」ということもいっており、ずいぶんと主人と奴隷の関係性に関する認識があらためられた。
そして、注意散漫になるため、奴隷たちに「片手間に自分の商売をすること」を禁止せよという。
まさに現代の「副業禁止」に似ているではないか。
奴隷制について
古代ローマにおいて、当たり前の存在だった奴隷。
そんな奴隷たちと現代社会の労働者を比べて、上記に述べたとおり「管理されている」という点において共通点があるが、やはりその違いに目が行った。
たとえば、奴隷は法律上の権利を持たない点であったり、主人は、奴隷に対して暴力や性交が許されているといった点だ。
そもそも、人々はどういう経緯で奴隷になったのだろうか?
奴隷とは戦争捕虜か、さもなければ女奴隷が産んだ子、そしてほかにもさまざまな事情で奴隷に身を落とす例があったとのことだ。
また、奴隷の仕事は実に多岐にわたっていることにも驚かされた。
奴隷の仕事は大きくわけて二種類あり、「農場の仕事」と「都市の邸宅での仕事」。
家の中を例にあげても、玄関で見張りをする老人、食堂で水を注いで回る若者、寝室で主人の世話をする美少女など、多くの奴隷がさまざまな仕事をし、主人のあらゆる要求に応えていたらしい。
おわりに
著者は、マルクス・シドニウス・ファルクス (Marcus Sidonius Falx)という古代のローマ人貴族。
何代にもわたって奴隷を使い続けてきた人物だ。
解説者であるジェリー・トナーは、ケンブリッジ大学チャーチルカレッジの古典学研究者。
本書は、奴隷所有者たちに向けた教育書として出版されたもので、奴隷の扱い方について、多くの具体的な指南を提供している。
このような歴史的な著作を読むことで、当時の社会や文化について学ぶことができる一方で、現代の社会においては倫理的に問題があると認識することも重要だ。
ただ、古代の「主人と奴隷」との関係は、現代の「経営者と従業員」の関係に共通点があることにも気づかされ、ハッとさせられた。