レビュー『若い読者のための文学史』
無人島に本を一冊持っていけるとしたら、何を持っていくか?
すでに読んだ読んだ本の中で、1冊だけしか選べないとすると、芥川龍之介の『河童』かもしれない。
短い本だけれど、読むたびにあたらしい発見があるからだ。
芥川は『ガリヴァー旅行記』を意識し、社会への風刺として『河童』を描いたので、主人公と登場する河童たちに一挙手一投足に対して「どんな意味があるのだろう?」と考えるのが楽しい。
もしもシリーズものが許されるならば『指輪物語』を持っていきたい。
世界中のハッカーたちに愛されている文学だけれど、恥ずかしながら、まだじっくりと最後まで読みとおしたことがないからだ。
冒頭の質問に対して、イギリスで一番おおい答えは「ジェイン・オースティン」の作品だそうだ。
『高慢と偏見』しか読んだことがないが、それほど人気だと知ったのは本書のおかげ。
本書がとりあつかっているのは、主に英語圏、とくにイギリス文学史。
内容の軽やかで取っつきやすく、英語圏とイギリス文学についての全体像を学ぶガイドブックとして秀逸だ。
「文学史」の敷居を低くしていることが特徴で、英文学史に興味ある人はもちろん、たくさんの本のなかからいかに本を選んだらよいかのガイドを探している人におすすめしたい。
古代から現代へという順になっており、それぞれのジャンルの代表作を40章にわたって紹介。
「最高の文学は決して物事を単純化せず、複雑な世界を受け入れられるように、心と感受性を広げてくれる」という著者のことばどおり、人生をゆたかにしてくれる文学。
それぞれの作品が、どのように読者の意識を変えたのかが面白く、アンクル・トムの小屋が奴隷制を変えたのが、その代表例といえる。
ロビンソン・クルーソーやガリバー旅行記が、当初はモキュメンタリー(フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法)として販売され、読者も「本に書かれていたことは、実際に起きたこと」だと受容していたということも、本書を読んではじめて知ることができた。
登場する作家は、ホメロス、チョーサー、シェイクスピア、ディケンズ、オースティン、エリオット、オーウェル、カフカ、村上春樹、J・K・ローリングと多岐にわたる。
教科書的な概説を語る本とは違い、抽象論ではなく、具体的な記述が主で、それぞれの作家、作品のディテールを興味深く読めた。
入門書として、抜群に優れた本。