【書評】クリエイティビティを刺激する『世界幻妖図鑑』
クリエイティビティを刺激する、ステキな本に出会いました。
それは『世界幻妖図鑑』で、世界各地の伝説や民話で、その存在を信じられてきたまぼろしの生き物たちである「幻妖」を紹介する本です。
不思議な生き物たちが、人に悪さをする一方で、たくさんの恵みを運んでくれています。
それはあたかも、この世界で生きていくための術を、その姿をもって提示してくれるいるよう。
たとえば、恐ろしい嵐や地震が起きたときは、「幻妖」の力にすがり、しずめなければいけませんでした。
「幻妖」のイラストが素晴らしいので、幻想動物や、妖怪好きの子供はもちろん、大人も楽しめます。
また、小説や映像、ゲームといった、物語をつくる仕事にたずさわっている人にも、あたらしいアイディアを与えてくれるはず。
世界の幻獣や妖怪を紹介するいままでの本は、たいてい辞書のような体裁をとっていました。
そのギチギチした感じは、気になった幻獣・妖怪をしらべるには役にたちますが、最初から最後のページまで読みとおせる「読み物としてのおもしろさ」は欠けています。
その点、『世界幻妖図鑑』は、魅力的なイラストと、必要最低限の説明、センスよく配置された十分な余白により、最初から最後まで読みとおすことができます。
この本を本屋で見かけた時、「なんでこんなにでかいんだ?」と、本の大きさに圧倒されました。
しかし、ページを開いてすぐに、本の大きさが、本の魅力をさらに引き立てていることに気づかされます。
それは、本書の一番の特徴である、著者の美しいイラストを、ディテールまで存分に楽しむことができるから。
自然な配色と、紙も素晴らしく、1ページずつ没頭することができ、「幻妖」の世界観にひたることができます。
紹介されている「幻妖」も、世界各地のものなので、知らないものが多く、世界の物語の豊かさを感じます。
たとえば、オーストラリアの「虹蛇」は、虹色に輝く緑を持つ巨大な蛇で、水と雨を操り、万物の源と信じられています。
北アメリカの「サンダーバード」は、山火事が起きると背中に水を乗せて現れ、火を消してくれます。
フィリピンの「バクナワ」は月を食べる海竜です。
人に害をなす「幻妖」をあげると、まずはロシアの「バーバ・ヤーガ」で、暗い森の奥に住む山姥です。
鉄でできた歯と、蛇のような髪の毛、骨と皮だけの体をしており、人間をおそいます。
北欧の「ネック」は、人間の姿か馬の姿で現れては、美しいバイオリンの音色で人を水に誘い込む、音楽好きの水の妖精。
コロンビアの「カイェーリ」は、雨を吸って膨らむ怪物で、雌牛を一頭丸ごと平らげることができる巨人です。
著者のルトウィヒ・フォルベーダはオランダの作家。
多数の賞に輝いており、2018年には本書で、金の絵筆賞と、ヨーロッパデザインアワード銅賞を受賞しています。
自然や神話などをテーマとしたノン・フィクション作品を書いており、ドイツ語、デンマーク語、韓国語、中国語、ロシア語に翻訳されています。
本書は幻想的で、魅力的なイラストが素晴らしく、興味をかき立てられました。
世界各地の「幻妖」が紹介されているので、読むだけで少し博識になれた気がします。
本の大きさと、美しい装丁、すばらしい配色と配置により、コレクション欲がくすぐられます。
妖怪や幻想動物に興味がある人にとって、味わい深い本です。
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