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レビュー『ネクストシリコンバレー』

ドイツへの移住を考えているので、気になっていた本。

本書でとりあげられているのは、次の技術革新が生まれる場としてのイスラエル(テルアビブ)、インド(ハイデラバード)、ドイツ(ベルリン)。

現地で実際にビジネスを営む三人の日本人経営者が、それぞれの国と都市について執筆しています。

いずれも、まず語られるのは歴史や政治・経済といったマクロの視点。

そして、テクノロジースタートアップが隆盛した背景と、代表的なスタートアップ、日本企業が進出する上でのヒントを紹介。

「次のテックハブ都市はどこなのか?」と、「日本の企業はどこと、どう手を組めばいいのか?」というふたつの質問に答える本となっています。

以下、それぞれの国のハイライトを紹介します。

イスラエル

・優秀な人や多額の投資マネーが集結し、エコシステムができている
・スタートアップの最大の特徴は、初めから世界進出を目標に置いていること
 ・国内人口が少なく、国内市場だけでは大きな成長が見込めないから
・イスラエルのスタートアップは「圧倒的なスピード感」が大きな強み
 ・「雑になる」という弱みにもなる
 ・リリース当初の質は低くなりがちで、品質向上が苦手
・イスラエルは秘密主義の傾向があり、情報を開示していない企業も多い
 ・人脈や信用を重んじるので、自分の足で人脈を作るか、現地の経営者を紹介してもらえるコンサルタントなどを使う

インド

・インド人は仕事以外のコミュニケーションを好む
 ・上下関係を気にする人も多い
 ・「仕事以外」の関係作りで、「人間的な魅力」を伝えることが不可欠
・投資先を選ぶ一つの解は「どこが投資しているか」
 ・高成長のスタートアップは、初期から有力な投資元がバックアップしていることが多い
・有力投資先の存在するエリアも複数に分かれている
 ・インドは都市ごとに経済圏があると考えて動く必要がある

ドイツ

・意思決定をせず、自分の主張を持たない人間に欧米のビジネスパーソンは決して心を開かない
 ・彼らと「対等」に接し、会社の看板ではなく、自分が何者で何がしたくて、なぜここに来ているかをはっきり主張するのが大事
・ドイツの大手企業の場合、スタートアップに対し資金援助だけ行い、後は自由に経営してもらう協業パターンも多い
 ・スタートアップ、大手企業双方が「対等」の立場で接している
・スタートアップはドイツ語圏のマーケットをまず狙う
 ・ドイツ語圏は、話者人口こそ1億人程度だが、一人当たりのGDPが最も高い言語圏で、高単価商品の購買力が高い
・成熟社会において機能や品質は差別化にならない
 ・欲しいか欲しくないかという、感性に訴えるものが必要

ベルリンでは毎年500社のスタートアップが生まれていることや、カオスコンピュータークラブ、N26については知らなかったので勉強になりました。

ただ、本書の物足りない部分をあげると、三人の著者が三都市について別々に書いているので、三都市を横断した比較がなされていないことでしょうか。

いずれにせよ、現地事情に精通している三人の執筆者による生の声は貴重で、テクノロジーの最前線を紹介してくれているという点でとても価値のある本だといえます。

大手IT企業の顔色をうかがうスタートアップが増えてきたシリコンバレー。

それに反し、本書であげられた都市は独自の文化を持ち、魅力にあふれており、そのスタートアップ精神には、表現者の精神を持ち、「起業家は、精通していない市場にも果敢に参入し、走りながらビジネスを作り上げていく」という気概をかんじました。


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