日本の美意識が息づく挿絵:『絵本 化鳥』の魅力に迫る
『絵本 化鳥』は、幻想文学の大家・泉鏡花が書いた名作「化鳥」を、中川学が完全絵本化したもの。
この作品は、かつての日本における奇妙な物語を描いており、不思議な世界観が特徴的だ。
日本の文学、とくに幻想文学に興味のある人や、情緒豊かな挿絵による美しいイラストを鑑賞したい人にオススメ。
物語の主人公は、男の子・廉(れん)。
お母さんとふたり暮らしで、お母さんは橋のたもとの番小屋で橋の通行料を徴収する仕事をしている。
物語の中で繰り広げられるのは、廉の目に映る橋を渡る人々の風景と、大好きな母との日常。
廉は、雨の中、びしょびしょになりながら急いでいる橋の通行人を「いのしし」と言い、人間を別の生き物にたとえる遊びをしている。
そして、人間も動物も同等か、むしろ動物の方が上くらいのいきおいで話す。
子と母の密な世界を軸に話はすすみ、廉は化鳥との出会いをつうじて...
廉の眼には、大人には見えない世界が見えていると感じさせた。
そして、物語全編を貫いているのは、廉のすべてを肯定してくれる母親の絶対的な存在。
廉という存在、廉の言葉、廉のものの見方、そういったものを全てをひっくるめて受け止める母親の安心感を感じた。
また、本作品の魅力は、奇妙な世界観や、謎解きだけではなく、泉鏡花が描く人々の生き様も、読者を惹きつける要素。
蓮たちが直面するさまざまな問題や苦難、そして人々の情緒や心理描写をつうじて、読者は人間の本質に触れることができるだろう。
そして、中川学が描く絵の美しさも、泉鏡花が描く世界観と見事にマッチしており、読者を魅了している。
緻密な筆致と色彩使いで、物語の世界を豊かに表現しており、特に、化鳥の描写は、不思議な生き物の魅力を存分に引き出している。
まとめると、『絵本 化鳥』は、泉鏡花と中川学の才能が融合した、素晴らしい作品だ。
幼いころに母をなくした泉鏡花の、不朽のテーマである「母への追慕」が伝わってきて優しい気持ちになった。
幻想文学が好きな人や、文学的古典の再発見に興味のある人にとって楽しめる本。