レビュー『ストーリーを語りだす 世界のデザイン・マップス』
旅にでると、手書きでかかれた地図が載ったリーフレットを集めるのが一つのたのしみになっている。
Googleマップでは物足らない「ストーリー」に飢えているからだ。
地図は、視覚的な表現方法の中でも特別な存在。
ロマンを掻き立て、論争を呼び、実用性も備えたものである。
もとをたどると、地図は人間の直感をシンプルに形にしたものから始まり、時代とともに洗練された視覚的ツールへと進化してきた。
そんな地図についての個性的な本が本書。
ドイツ・ベルリンに拠点を置くクリエイティブなアート系出版社「ゲシュタルテン」の翻訳本だ。
「ゲシュタルテン」は1995年に設立以来、アート、建築、フードデザインといった美術関連書を刊行している。
本書では、世界中のクリエイターによる、アーティスティックな地図作品を収録。
描かれる土地から醸し出される雰囲気や、豊かなストーリーを伝えてくれている。
これらの地図は、無味乾燥なデータから溢れんばかりのストーリー性をもっており、どんな地図にも固有の美しさや独特の世界観を見出すことができる。
正確で緻密なものから、素朴な風合いをもとものなど、表現スタイルは様々で見ていて飽きない。
本書をながめていると、地図は本来の目的を超えて、人間の好奇心の表現の場、そして世界を読み解くための手段であることを思い出させてくれる。
そして、壮大なコンセプトをかみ砕いて理解し、そこから浮かび上がってきたパターンから将来を予見し、今まで気づかなかった新たな意味を見出す手段でもある。
例えば、気象データを地図に落とし込めば、気候や人口の変動を可視化し、それに即した都市設計や都市計画を実践することも可能だ。
さらに、地図を見るだけで、虚実の入り混じった世界を疑似体験することができるため、現実逃避にもってこいだ。
まさに地図は、世界を表現する魅力的なアートの形態といえる。