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たけとりものがたり 4枚目
ある日、また二人で山にあがった。
「静かにせえ」
と言われたけれど、坊主の姿が木にかくれたりして見えなくなると、
なんだかさみしくなった僕は
「父さん、父さん」
と呼んだ。
「シーーーーーっ」
そのうち、だれかが話しながらこちらに近づいてくる声が聞こえる。
近くのおばさん達が賑やかに。
「ここにはあれがあるけんね」
「あれがとれるけんね」
その声を聞きながら、坊主は見つからないように静かに木の陰に身をひそめた。
おばさん達のあとをこっそりつける。
行った先には色んなキノコがたくさんはえていた。
実はそこには松茸がはえていたのだが、
そのおばさん達が来る前に、
坊主が少しだけ残してこっそり採ったよう。
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キノコのはえる場所は家族でも内緒にするほどだ。
その山にある自分だけの秘密のお宝。
子どもが大きくなったら、父親から習うことが多いが、
19の時にオヤジをなくした坊主は、
正蔵坊に伝わるであろうキノコの場所を教えてもらってなかった。
雑茸は何となく採れたが、松茸や香茸はなかなか採れない。
では、どうやって坊主はキノコのはえる場所を知ったかと言うと、
どうやら、色んな人が山に入るあとをこっそりつけているようだった。
その中でも一人、松茸採りで名人と言われるオジイサンがおり、
「ホイホイ」
と言いながら寺の横にある山への道を登っていく。
特にこのオジイサンの後をつけて行ったようだった。
うん。
松茸採りは難しい。
足跡が残らないように。
山に入るときから、下の方をぐるーーとまわって。
近道は通らず、ひたすら遠回り。
だから松茸採り名人の後をこっそりつけて行くのは大変なことだったろう。
そんなことを思いもしなかった僕は言った。
「あそこの峰を通ったが近いよ」
「だらずが。そがんことすると、みんなに分かってしまあが。」
と、言われてなるほどと、体を小さくし、
誰もいないか、こそっとあたりを見回す。
すると松茸が二、三本ほど目に飛び込んできた。
けれど、それからしばらくして、
その場所に突然現れた、柵。
そこから先の立ち入り禁止を無言で伝えてくる柵。
山をわける柵。
山持ちの人が松茸を出荷されるようになり、
もうそこのキノコには会えなくなった。