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チャンスをモノにできなかった夫婦の話
晴れ渡る空の下、だがその冷たい風は肌を刺すように強く吹きつけていた。
気温は予想以上に冷え込んでおり、風は一層その寒さを引き立てていた。
テーマパークに足を踏み入れたとき、期待に胸を膨らませたが、
その瞬間から何かが狂い始めていた。
全てが思い通りにいかない予感が、次第に重くのしかかってきた。
そう我々は【ユニバーサルスタジオ】に来ていた。
久しぶりの帰省で1番の目的は、両親に0歳児の顔を見せるというものあったが、それ以上に【ユニバーサルスタジオに行く】という事を、第一に置いていた。
それには理由が、いくつかあった。
一つ目の理由は、もうすぐ小学校に上がる6歳の娘が、
今年の4月には新しい生活が始まるからだ。
保育園に通っている今しか、平日休みをとって帰省できない。
ましてや家族全員で平日にテーマパークに行けるチャンスはない。
これからは激混み必死の休日にしか行けなくなるだろうから、
最後の平日テーマパークを思いっきり楽しむ為に行かねばなるまい、そう思った。
二つ目の理由は、ちょうどUSJが閑散期でチケット代が少し安くなっていたこと。
正直、チケット代が高くなってからは、思うように楽しめなくなってきた。
しかし、この時期に帰省と重なったため、少しでも出費を抑えて、
気兼ねなく楽しめるだろうと、これは絶対に行かねばなるまい、そう思った。
そして最後の理由は、私たち夫婦が最後に訪れたのは7年前、
二人だけで行った時だった。ハリー・ポッターのエリアを満喫したが、
今や新たにスーパーニンテンドーワールドが登場し、
私たち世代にはまさにドンピシャ、ドストライクなテーマだ。
これは行かねばなるまい、いや、行かずして帰省と言えるだろうか?と、そう思い、絶対に行くと決心した。
こうして、私たちは家族で計画を立て、色々調べ、そして家族で6歳娘も行きたいところを色々言い合い、マリオを中心の我々夫婦と、娘が興味を持ちそうなアトラクションを色々選んだ結果、マリオ+他は娘の行きたい所で落ち着いた。
そう完璧な計画を立てて…。
そして迎えたUSJ当日。
天気はまずまず
気温は極寒
風馬鹿強い。
7年ぶりに訪れる私たち夫婦と、初めてUSJを訪れる0歳児と6歳児。
胸が高鳴る思いで電車に乗り込んだ。
乗り換え駅に到着すると、大きな看板に描かれたニンテンドーの世界が目に飛び込んでくる。
「楽しみだね」と娘に声をかけると、突然の一言。
「…あそこ、行かない。」と、急に拒否。
何故?
「クッパが怖い。」
子供からすれば確かに恐ろしい存在かもしれない。
しかし、あのゲームの世界では必ず最後に倒すべき相手だ。
クッパに臆することはないと説得するも、娘は「怖い、行かない」の一点張り。
夫婦の間に微妙な空気が流れる。
子供の言う通りにしてあげるのが親の務めだろう。
しかし、大人からしたら子供のエリアだけで過ごすにはチケット代が高すぎる。
せめて結果を出す、このチケット代に価値を見出すと言う意味で、
スーパーニンテンドーワールドは絶対、そしてそこのアトラクションは間違いなく乗らないといけない。
そう思って、今回挑んでいる事を告げると
関係なく6歳娘は拒否を続ける。
まぁ、そうなるわな。
いや、きっとエリアに入ったらとんでもなく素晴らしい世界観が広がっていて
娘も自ずとテンションが上がるだろう。
そう思い、USJに突入!
そして他のアトラクションに目もくれず、スーパーニンテンドーワールドに入る。
早速、おなじみの土管が現れる。
その中を通る私たち家族。
我々夫婦はテンションだだ上がり。
しかし、娘はテンションだだ下がり。
そう、すでにビビり散らしている6歳娘。
土管を抜けると、思ってた通りの世界観。
自分がゲームに入ったかの様な素晴らしい景色が広がっていた。
思わず写真を撮る我々夫婦。
ふと、6歳娘を見ていると…しかめっ面100%。
そして
「もう出よう…」と、衝撃の一言を放つ。
我々夫婦はもう「待て待て待て待て待て待て待て待て!」状態。
何故かと聞くと
左側にそびえるクッパ状が怖いとの事。
確かに、迫力のある作り。
しかし…あの城の中にアトラクションが…。
クッパの何が嫌かを聞くと
「キモい」「恐竜怖い」とのこと。
まぁ、確かにあんなのがいたらそう思うけど
そこはキャラクターじゃん…。
なんとか説得しようと試みるも「早くここを出たい」の一点張り。
クッパ城から視線を外し、それ以外に広がる世界観を見て
テンションをあげてもらおうとする。
すると、目に付くもの全てが嫌と言い出す始末。
ドッスン…怖い
パックン…怖い
ノコノコ…キモい
クリボウ…怖い
ヨッシー…キモい
え?ヨッシーまで?
あれもアトラクションなんですけど!
せめてヨッシーのキモいを取り消してくれと懇願するも
「トカゲキモい」と完全拒否。
確かにトカゲとしてみたら、でかいしキモいし恐竜に通じるし、
そうなったらクッパにも通じるし…
それでも何か一つでも乗らないと
ここにきた意味がないから必死に説得を試みる。
が、オールNO
心の中で私は葛藤していた。
娘の言う通りしてあげるのがベストだろ。
なのに、説得してるってどう言う親なんだ!
でも、ここで何も乗らなかったら
あと他に行く場所はおそらくお子様エリアと、ミニオンのみ。
ハリーポッターも行かない。
ジョーズ・ジュラシックパークなんてもってのほか。
大人として楽しめるところはここしかない。
バカ高いチケット代払っているのは我々なんだ!と…。
私は、6歳娘に土下座する勢いで
「目を瞑ってもいいから、ヨッシーのアトラクションだけは乗ってみて」と懇願。
そして渋々なんとか乗ることに成功。
結果、娘は意外にも満足そうな顔をしていた。
あとは…立ちはだかるのはクッパ城のみ。
娘はこれだけは絶対に行きたくないと頑なに拒否し続けた。
ここでも説得を試みるが、結果は同じ。
そこで、私は一旦冷静になり、お土産屋さんで娘の気分を変えてみることにした。
色とりどりのグッズに囲まれ、我々夫婦、そして娘のテンションはが上がった。
この勢いでいけないものかと考え、店員さんにマリオカートが怖いか聞いてみた。すると店員さん曰く、自分で運転する、スピードも出ずに、みんなで楽しめると言われた時、娘も興味を少し持ってくれた。
そして続けて、甲羅をクッパに当てて楽しむんだよと言われた瞬間、
6歳娘の目が死んだ魚の目に変わる。
クッパは禁句なんです…と、店員さんには言えず。
とにかく楽しいアトラクションだと言われたが、ほぼ半開きになった目は一切開かなかった。
最終手段で「何か欲しいもの買う?その代わりマリオカート乗りに行こう」と交渉。
すると「じゃあ、いらない」と、物欲にも勝ってしまう娘の不動の固い意志を述べられ、我々夫婦は見合った。
今度はいつ来れるかな?1年後、2年後?
とにかく、娘が大きくなってから来よう。
そしてマリオにもっといっぱい触れさせて
クッパを怖がらない様になってからもう一度トライだね。
いや、待てよ。
今度はこの0歳児が怖がって拒否するかもしれない…。
きっとまた…思い通りにならないだろう…
そう思いながら、我々夫婦が半開きの目になり
お土産だけ勝ってスーパーニンテンドウワールドを後にした。
おそらく我々家族が訪れるのは…7年後かな?