エミーナの朝(5)
クラスター総合病院
クラスター総合病院にはわたし一人で行くことにした。
ナゴンの部屋で一緒に朝食を済ませた。ナゴンには「子供じゃないから大丈夫だよ」と言って、仕事に行ってもらった。
自身は、アパートの近くに停められていたクルマで、いったん自宅に帰った。
病院への準備を急いで完了し、開院時間の直前にクラスター総合病院の駐車場にクルマを止めた。
病院の前に来ても中に入らず、薬局の前を通り抜けて裏庭のベンチに座った。そこで、ナゴンが告げてくれたわたしの行動を、頭の中で整理した。
病院は丘の上なので市街地が見渡せる。 「夫の病室からも賑やかな街並みが……」と思いが至り、一瞬、「ああ、一人で来なければよかった」と思った。
気を取り直して受付へ行き、簡単な症状を伝えて、睡眠外来へ案内された。
睡眠外来では、まず血液検査を先にすることになった。そのあと呼ばれて、診察室に入った。
女性医師が明るくそして嬉しそうに迎えてくれた。まるで「よく来てくれたわね。待っていたのよ」と言わんばかり。勿論、初対面である。
問診は、生活状況から始まり、家族、過去の出来事、病歴など。
年齢は四十四で、半年ほど前に夫を亡くし、子供もいないので今は一人で暮らしていることを伝えた。
更に、まだまだ働けるので税理士事務所の繁忙時にパート事務職として働いていること、友だち、趣味、お酒、常用している薬などについて話した。
医師はこちらの表情を観察しながら、パソコンに打ち込んでいた。優しい感じでの問診なので、落ち着いて話せた。
「お連れ合いは、この病院で最期を……、大変でしたね。 もう落ち着きましたか? 乗り越えましたね。よかったです。 今日は、どうしました?」とやっと肝心なことを聴いてきた。
この一週間ほどの出来事を話した。
「そういう症状なら、睡眠時遊行症だと考えられます」と医師は回答した。
エミーナ「睡眠時ゆうこう……」
医師「夢遊病とよく言いますよね。子供なら発達時に起きることがよくありますが、大人の場合は強いストレスが原因と考えられます。なにか心当たりがありますか?」
わたしが黙っていると、
医師「何度もこの総合病院にいらっしゃるのは大変だと思います。駅前にある睡眠障害を専門に扱っているクリニックを紹介しますので、そちらに行かれたらどうでしょう」
エミーナ「はい、そうしていただければ……」