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武庫川女子大学の研究所再編から考える。研究機関としての大学の魅力とは何か、そしてどう伝えるべきか
大学改革の必要性が声高に叫ばれている昨今、学部学科の再編というのは、大学業界の動向を見ていると、そこそこよく目にします。今回、見つけたのも“再編”を記念したシンポジウムなのですが、対象が学部学科じゃないんですね。こういう動きについて、これまでそんなに意識を払っていなかったのですが、今後はより大事になっていくように思います。
大学にあるすべての研究所・センターを再編
では、何の再編を記念したシンポジウムなのかというと、研究所&研究センターです。武庫川女子大学では、既存の研究所及び研究センターを2024年4月1日に「教育総合研究所」、「健康科学総合研究所」、「女性活躍総合研究所」の3つに再編。今回、再編して1年が経過するのに合わせて、キックオフ公開シンポジウムを開催することにしたのだとか。
大学の研究所&研究センターには時限制のものが多く、再編や廃止、また新たに設置されること自体、そんなに珍しいことではありません。でも、武庫川女子大学の再編を見てみると、なんと13もの研究所及び研究センターが同時に行われたようなんですね。
再編された13の研究所及び研究センター(順不同)
「発達臨床心理学研究所」「教育研究所」「言語文化研究所」「生活美学研究所」「情報教育研究センター」「バイオサイエンス研究所」「国際健康開発研究所」「トルコ文化研究センター」「健康運動科学研究所」「栄養科学研究所」「学校教育センター」「附属総合ミュージアム※」「女性活躍総合研究所」※附属総合ミュージアムは3総合研究所とは別組織として位置づけ
これってかなり思い切った改革だと思う一方、学部学科の再編や新学部の開設に比べると、そこまで注目されていないように思います。
学部学科が変わる場合、それを大々的に伝えて、受験生獲得につなげる必要があるので、自ずと知る機会も多いのでしょう。でも研究所や研究センターの場合、再編によって著名な研究者や実務家がやってくるとか、めずらしい研究機器が導入されるとかであれば話題になるかもしれません。だけどそうでもないと、いち大学の学内組織の改編でしかなく、社会へのインパクトは限定的です。私のリサーチ不足があるものの、武庫川女子大学のこれほど大規模な研究所&研究センターの再編であっても、1年が経ってやっと知ったわけで、なかなか社会に届きにくい印象があります。
研究業績だけでは伝わらない、大学の研究力
もっと言ってしまえば、大学の研究所や研究センターの再編……というより、そもそも大学の研究所や研究センターというもの自体が対外的に見たときに存在感が薄いのだと思います。少なくとも学部学科に比べたら、だいぶと薄い。とはいえ現状そうだとしても、今後はもっと大学の研究所や研究センターをアピールしていくべきだと思うんです。
というのも、社会課題が山積していることや、少子化が進んでいることで、研究機関としての大学の側面が近年あらためて重要視されてきています。そこでまずフィーチャーされるのは研究者の研究成果や研究活動ではありますが、研究者というのはどこまでいっても個人商店なわけで、別大学や研究機関に移るということがままあるわけです。さらに、やっぱりどこまでいっても、すごいのはその研究者自身なんですよね、大学は所属先でしかない。
大学として研究力の高さを謳うのであれば、研究ランキングで上位を取るとか、科研費の総額がすごいとか、そういうことになってきそうです。もちろんこれらは強いPR材料になります。でも、研究機関としての大学が何を大事にしているのかとか、何をめざしているのかというのは、これら情報ではほとんど伝わってこないんです。
研究機関としての方向性を可視化するのであれば、具体的な場や組織のある研究所や研究センターがわかりやすいし、説得力があります。たとえば、京都大学では毎年「京大ウィークス」といって、秋に同大学の教育研究施設を一斉に公開するイベントをしています。何度か取材したことがあるんですが、具体的な場に足を運び、そこで行われている教育研究活動を体験したり、見聞きしたりすると、研究への解像度がグッとあがるし、大学の研究へのスタンスも感じ取れた気がしました。これって数字や数値だけでは、決して表現できないことです。
また、研究所や研究センターでは、学部学科を横断して多様な研究者たちがかかわり、特定のテーマや社会課題について研究をします。これらテーマや社会課題には、その大学が重視しているものが多く、研究機関としての自大学のアイデンティティを学内に浸透させるという意味でも重要な役割を担っていそうです。先に取り上げた武庫川女子大学の研究所だと、「女性活躍総合研究所」にそういった視点を強く感じました。
言うまでもなく大学は教育機関であるとともに研究機関です。研究機関としての魅力を伝えるうえで、優れた研究者がいることを伝えるのは必須ですが、これだけでは片手落になります。これら研究者がいる大学そのものが何をめざしていて、そのためにどんな体制や環境をつくっているのか、それも合わせて伝えないことには、”大学の魅力”としての説得力は出てきません。そして、この大学としてどうか、を伝えるうえで、研究所や研究センターは、これ以上ない説明材料になります。ぜひ研究所や研究センターを伝えることの意義をあらためて考え、普段あまりスポットライトが当たらないこれら施設・組織をもうちょい積極的に押し出してもらえたらなと思います。