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高校生向け入試広報とはまったく違う?大学院進学を提案する、という立命館大学の熱量あるアプローチを考える。
高校生をターゲットにした入試広報活動は、わりかし目につきますが、大学院生獲得に向けた広報活動というのは、あまり話題にあがりません。大学院の場合、志願者数が学部に比べて少ないうえ、大学ではなく指導教員で進学先を選ぶ人が多いので、大学全体として大々的に広報活動をする意味があまりないからなのかもしれません。しかし、今回、見つけた立命館大学の広報活動は、ひと味ちがいます。大学院志願者獲得のためのものでありながら、なかなかの規模感、さらに面白いのはメインターゲットが学内の学生なんですね。あれこれ考えていくと、大学院のプロモーションとして、これは大いにアリなように思いました。
取り組みの名前は、「大学院ウィーク」。その名の通り、2週間もの間、立命館大学の研究科に関わるあれこれを対面やオンラインで体験できるというもの。特設サイトをざっと見たのですが、内容がだいぶ濃いんです。メインとなるのは、おそらく「研究科イベント」という各研究科が主催する授業やセミナー、座談会、懇親会など。研究科が21あって、なかには1研究科で7~8つのプログラムを開催するので、全部合わせると100を有に超えるプログラムが展開されるようです。また、大学院生の1日や教員の推薦本の紹介、さらにはなぜか本イベントと食堂のコラボメニューが登場するなど、内容に硬軟あって、大学院進学をまったく考えていない私が見ても、なんだか面白そうに感じました。
オープンキャンパスと比べても遜色ないどころか、こちらの方が充実しているのでは?と思ってしまうようなイベントを、学外の学部生も参加できるとはいえ、自校の学部生をメインターゲットにして実施するのはどうしてなのでしょうか。少し不思議に思いつつも、よくよく考えると、これってオープンキャンパスとはまったく異なる立ち位置のイベントなんだという答えに行き着きました。オープンキャンパスは、複数ある志望校の候補を絞り込むための情報収集の場です。でもこのイベントは、そもそも大学院進学が俎上に載っているかいないかの学部生に、大学院という選択肢そのものを提案する場なんだと思うのでです。
コンテンツのなかには「大学院ってどんなところ?」というそもそもを伝えるものも
そう思うと、一番伝わる人(=自校の学部生)をメインターゲットにしつつ、これだけ熱量の高いイベントをするのもわかります。というか、新しい選択肢を提案するというのは、これぐらい丁寧に伝えようとしないと響かないと思うのです。また逆(?)に、大学院進学を真剣に考えている学部生にはあまり響かないイベントだと思うんですね。大学院進学を真剣に考えている学生は、研究したい分野がある程度定まっているわけで、研究論文を検索したり、ゼミの先生に相談をしたりするわけで、大学院そのものを知ろうという段階はすでに過ぎている可能性が高いからです。このように考えていくと、この取り組みは広報活動というより啓蒙活動に近いように感じました。
そして、こういうアプローチが成立するのは、おそらく自校の学生だけです。だって、他大学の大学院関連の情報をキャッチできるほどに情報収集をしているのであれば、すでにそれは顕在層です。啓蒙する必要がもうないんです。それより伝えるべきは、大学院の情報を探しているわけではないけど、何か熱量の高いイベントをしてるみたいだからちょっと覗いてみようか、と思う人たち。探してないけど出会う、すごく興味があるわけじゃないけど足を運ぶ、これが実現できるのってたぶん自校だけなのではないでしょうか。
海外に比べて日本の大学院進学率が低いことは、以前より問題になっています。この問題解決の一つとして、大学院という選択肢を学部生に伝えるという活動がもっと活発化してもいいのではないかと感じました。また、技術革新や社会の変化が劇的に進む現在、社会人のリスキリングの必要性も高まっています。卒業生対象に大学院イベントというのをやってみてもいいかもしれません。まずは身近な人に、大学院という選択肢を提案する、そういう活動が増えると、世の“学び”への認識も少し変わってくるかもしれません。