寄付金獲得のためのLPの決定版?経験値の高さがにじみでる、京大iPS財団の広告ページを解説する
少子化が急激に進む現在、寄付金の獲得は、どの大学にとっても非常に重要なテーマです。そうは言いつつも、広告を使って大々的に寄付金を募っているところって、あまり見ないなあと思っていたのですが、今回、見つけちゃいました。大学の寄付募集のウェブ広告に出合ってしまったんです。この広告ページ(LP)のつくりがすごく優秀で発見があったので、今回はこれについて取り上げようと思います。ほんと、この広告ページはタメになります。
寄付金獲得をテーマにした、京大iPS財団のウェブ広告
今回見つけた広告ページは、京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)のものです。理事長をされているのは、ノーベル生理学・医学賞を受賞し、昨年まで京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の所長を務めていた山中伸弥先生です。山中先生といえば、ご自身が旗振り役になり積極的な寄付金を獲得し、iPS細胞研究を推進していったことでも有名です。
このCiRAの寄付金獲得のノウハウがしっかりと詰まっているのでしょう。とにかく、この広告ページは工夫が多いんです。まずページ出だしの表現がすごくわかりやすい。冒頭部分で、ビジュアルとキャッチで寄付の意義を伝え、その下に「毎月寄付者1,000人募集キャンペーン」という目標が掲げられ、達成状況がグラフで表示されています。そして、その下に、「\毎月1,000円が大きな力に/」の文字とともに、寄付申込みページへのリンクボタンがあります。つまり、この取り組みの意義、目標、目標の達成度、最低金額、申込み方法が、ページトップから半スクロールするだけで、すべてがわかる構成になっているわけです。
ちなみに私がこのページを見つけたときは、すでに寄付者1,000人という目標を達成していて、「次の目標2,000人を目指します」と表示されていました。これって寄付者が少なければ自分が何とかしようと寄付する気持ちになるし、いっぱい寄付されていたらやはり大事な取り組みなんだと再確認し、寄付をしたくなる。そういう意味では、達成状況が見えているというのは、けっこう大事な気がします。ただそれは、この取り組みが社会にとって価値があるものだという理解がある前提です。山中先生やCiRAのこれまでの活動がちゃんと認知されているからこそ、この端的な表現で十分響くのかなと思いました。
小さな工夫の積み重ねに経験値の高さがにじむ広告ページ
広告ページでは、その後、財団の活動目的、iPS細胞研究の進捗と課題、iPS細胞の実用化を目指す研究者たちの状況などなどが続きます。決して簡単な内容ではないのですが、それぞれの内容を端的かつ平易に説明しており、すごく練ってつくったのだろうと推測できます。また、「わたしたちの活動を応援してもらえませんか?」といった具合に、目の前にいる“あなた”に話しかけるような文体で書かれているんですね。こういった書き口調も、寄付金を獲得するうえで意味を持つように思えました。
発見ポイントは、ほかにもあります。時期について言及しているというのも、その一つです。目的達成のために寄付が欲しいというのは、どの寄付募集でも書かれていますが、これだと共感はするけど次でいいか…となりがちです。でも、今が非常に重要な時期だと強く言われると、ページを閉じずこのまま寄付をしようかと思えてきます。こういった表現はこれまであまり見たことがなかったのですが、とても大事です。
さらに斬新に思えたのが、寄付者は特典として特性絵ハガキをもらえるのですが、新規での寄付の申込みだけでなく、すでに寄付をしている人が毎月の寄付額を増額するのも対象になるんです。ウェブ広告はターゲティングされていると、同じ広告が頻繁に表示されることになります。これはすでに寄付をしていても、していなくても関係ありません。であれば、すでに寄付をしている人への広告を無駄にするのではなく、さらに毎月の寄付額を増額してもらうための情報を足しておくというのは効率的です。考えようによっては、すでに寄付をしてくれている人は、取り組みの意義を深く理解してくれている人だともいえます。そういう人に再度アプローチするというのは、実は意外と効率的なのかもしれません。こういったことを思いつくところに、何というか経験値の高さを感じますね。
寄付申込みフォームにも細やかな工夫がいっぱい
いろいろと広告ページの工夫について説明してきましたが、実はこれだけじゃないんです。このページの先、つまり申込みフォームページも工夫があります。見てください、これ。ものすごくシンプルで記入する内容は最低限に絞られているのですが、寄付の申込みをすべてここで完結できるんです。
このフォームがよく考えられてるなあと思ったのは、このシンプルさだけじゃありません。それぞれの記入エリアがかなり大きいんです。これって、年輩の人がスマホで申込みしやすい配慮だと思います。さらに、フォームの最下部には資料請求専用のフリーダイヤルが載っており、ここから寄付の振込用紙が取り寄せできるというアナウンスも書かれています。フォームを見て、記入の仕方がわからず申込みを断念しかけた人も、ちゃんとここで食い止めているわけです。
さらにもう一つ、おっ!と思ったことがあります。寄付額の選択部分が「毎月のご寄付金額」になっていって、本当に毎月の寄付しかできないんですね。毎月とは書いているものの、1回きりの寄付も選択肢のなかに書かれているだろうと思っていたのですが、そんなものはありませんでした。申込みフォームに記入しているということは、寄付をしようという気持ちに完璧に傾いている人たちです。その人たちに向けて、いたずらに選択肢を増やしてしまうと、寄付金の獲得額を減らすことにもつながりかねません。丁寧にお願いしてきめ細かに対応するけど、主張するべきところは主張する。そこらへんの押し引きの巧みさを感じさせます。
細かく言及していくと、さらにいろいろとあるのですが、さすがにもういいだろう…と思ったので、ここらへんで止めておきます。
寄付金を獲得するには、ターゲットがほとんど興味を持っていないところから情報を伝えて、意義を理解してもらい、心をゆさぶり、見返りがほぼないなかお金を払ってもらうという、非常に高難易度なミッションを達成しなくてはいけません。意義深い取り組みなのだから勝手に寄付が集まるだろうと考えるのは間違いで、意義深いからこそ、より工夫をしてより多くの寄付金を集めなくてはいけない。そういった考え方やスタンスこそが大事なように思います。今回の京大iPS財団の広告ページは、まさにこれを体現していたのではないでしょうか。