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地域と大学の魅力を重ねあわす。弘前大学の広告から感じる、地方国立大学だから伝えられること、伝わること

昨年、目にしたときも面白いなーと思いつつ、結局、他の話題が気になってnoteで取り上げなかったのですが、今年こそちゃんと取り上げようと思います。取り上げるのは、弘前大学の「学ぶ街は、暮らす街でもある。」をコンセプトにしたイメージムービーとイメージポスター。これ、考えれば考えるほど面白い取り組みなんです。

街の魅力を学生が語るムービーとポスター

では、どんな取り組みなのかというと、「学ぶ街は、暮らす街でもある。」をコンセプトに、学生が弘前の街の魅力をモノローグで語るムービー、そして同じイメージを踏襲したポスターになります。実は2014年にもイメージポスターを作成していて、しばらく空いた後、2020年以降は毎年ムービーとポスターを作成しています。調べてみたら実はこんなに続いていて、びっくりしました。

で、内容はですが、これは語るよりも見てもらった方が早いので、こちらをご覧ください。

複数メディアを使い、自大学以外の魅力を発信する

さて、動画を見てもらえましたでしょうか。この動画をまず見て思うのは、ほぼ弘前大学をPRしていないんですよね。弘前の魅力を全面に押し出しているわけです。ちなみに動画はロングバージョンとショートバージョンがあり、2020年からショートバージョンはYouTubeショートで作成されています。また、弘前大学の公式ウェブマガジン『HIROMAGA(ヒロマガ)』で、この取り組みと連動した記事を公開しています。

綿密な情報発信を計画してやっていることから、大学そのものの魅力を説明していないのは、結果的に、ではなく、あえて、なのだということが感じ取れます。では、なぜあえて、こういう表現をするのでしょうか。ここらへんを考えると、この取り組みの面白さがわかってくるように思います。

地域の魅力を、大学の魅力に上乗せする

弘前を全面に押し出す理由としてまず考えられるのは、弘前で学ぶことを、ほぼ弘前大学固有の魅力として語ることができるから、です。極端な話、東京の大学が、東京を題材にしたムービーを撮ったとしても、ほとんど効果はないんですよね。だって、東京にはたくさんの大学があり、どの大学にも、東京にある、という魅力が当てはまるからです。

でも、弘前の場合、設置されている大学は、弘前大学、弘前医療福祉大学、弘前学院大学、柴田学園大学の4大学のみ(短大のぞく)。数が少ないうえ、この4大学のなかであれば、国立大学である弘前大学の知名度が群を抜いています。そうなると弘前大学が、弘前で学ぶ=弘前大学で学ぶというスタンスで語っても違和感がないし、受け手もこの2つはだいたい同じという認識をもちます。これって大学が大学以外の魅力を伝えているのに、それが大学固有の魅力として伝わっているわけですよね。この捉え方であったり伝え方って、すごく面白いなあと思います。

ローカルであればあるほど増す、エリアの魅力

2つ目の理由を話す前に、少し考えたいのがターゲットです。この取り組みが響くのって、弘前エリア以外の人だと思うんですね。だって、弘前の雪の魅力を語っても、弘前市民は、えぇ知っていますとも……ってなりますから。ということは、弘前や弘前での生活がイメージつかない人の方が、もうひと声足すなら、イメージがつかない人であればあるほど、このムービーやポスターに興味をもちやすいといえるわけです。

ローカルであるというのは、受験生にとってどちらかというとマイナスに働きがちです。でも、この広告だと、ローカルであればあるほど広告としてのインパクトが増すことになる。そんなマイナスをプラスに逆転させられるという点も、弘前大学がこの広告表現を採用した理由なのかなと思います。

地方国立大学の在り方を学内外に伝えるポスター

しかし、ここで一つ気になることがあります。それはポスターです。ターゲットが弘前エリア以外の人なのであれば、ポスターをつくる費用をウェブ広告に投じてムービーをできるだけ拡散させた方が効果があるように思います。でも、(見えている範囲では)ウェブ広告をしていなさそうですし、あえて費用を割いてポスターを作成しているわけです。

ちなみに、今年の掲出場所はわからないのですが、昨年のものは年末年始に北海道・東北のJR駅に掲出したり、JR東日本新幹線車内のサービス誌「トラヴェール」に掲出したと弘前大学の公式サイトには書かれていました。

2023(令和5)年度弘前大学イメージポスター

弘前の魅力を訴えかけるのであれば、北海道・東北のJR駅よりもっと遠方のエリアの方が効果がありそうです。でも、近隣エリアに伝えることにも、まったく別の意味があるように思います。それは単純な受験生向けの広報ではなく、“弘前を誇りに思う弘前大学”を社会に伝える、という広報活動です。

この「弘前LOVE」というメッセージは、遠方の人に伝えてもあまり意味がないように思います。弘前エリアからそう遠くない人であったり、なんだったら弘前市民に伝えてこそ意味がある。地域にある大学は、地域と協調して発展していくのがベストだし、それが地方国立大学としての在るべき姿だと思います。ポスター掲出は、受験生獲得という意図もあるでしょうが、それとともに、地域や自分たちに“地域にある大学の在り方”を再認識させる意味もあるのかもしれません。

今回の弘前大学の取り組みは、地方にあり、なおかつそのエリアを代表する大学でしかできないものではありますが、アプローチとしての面白さと、大学としての矜持のようなものを感じさせてくれました。しかも、この取り組みを長年やっているというのが、なんというか”ザ・地方国立大学”といった感じがして、個人的にはすごく好きです。来年はどんなムービーとポスターができるのでしょうか。今からだいぶと楽しみです。

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