大学によるYouTuber的動画表現の落としどころ決定版?近大の研究紹介動画が、いろんな意味で今後が気になる。
私は「ほとんど0円大学」というウェブメディアの運営を通じて、日々、大学の学問や研究の魅力を発信しています。こういう活動をしているものからして、だいぶ気になる取り組みを見つけたので、今回はそちらについて紹介します。取り組んでいるのは近畿大学、取り組みの名前は「博士の回答」。動画を使った、小中学生に向けた学問の魅力発信です。
この動画、とくに動画のフォーマットがよくできています。各動画のテーマ(素朴な疑問)を父娘のかけあいで表現し、そのあとに近大の先生が回答する。先生の動画も、話している風景だけでは、間が持たなくなるので、いらすとやさんの力を借りつつ、先生が話す内容をわかりやすく図解しています。長いもので17分以上、短いものでも7分以上あり、決して短くないのですが、思いのほか飽きずに視聴できました。
研究系の動画のため尺はどうしても長くなるのだけど、最後まで見てもらいたい、でも予算はかけられない……。ここらへんの悩みを、悩みに悩み抜いてできたのだろうと想像でき、なんか勝手に感慨深い気持ちになります。さらにいうと、そういった動画を量産できるやり方を模索し、かたちにした、というのが、この企画の興味深いところです。
ひと昔前であれば、大学がPVをつくると、テレビCMと同じくくりで受け取られ、クオリティを比較されました(そしてだいたい見劣りして、大学がつくる動画はださいと言われていました……)。しかし、今はYouTubeの動画がテレビ番組や映画と同じか、それ以上に見られるようになり、動画のクオリティは千差万別だということを世代問わず感覚として理解されるようになったし、YouTuberによって動画表現そのものがより日常的になりました。こういった時代の空気は、大学の主要ターゲットとなる高校生を含む若者たちの方が、大人よりも強く感じているように思います。
これら状況を考えると、大学の広報、とくに入試広報で動画を使う場合、日常的な表現で、低いコスト、少ない手間、高い更新頻度で情報発信をする、という手法が以前より増えていっても不思議ではありません。実際、大学と話していると、YouTuber的な動画での情報発信に興味を持つ方が多くいます。でも、これって言うはやすしで、実際にやるのは大変なんですよね。こういった動画表現は、個人のスキル、感性、あとモチベーションに左右され、組織でやるにはむきません。
今回の近大の動画は、大学が組織としてYouTuber的な表現を使うとどうなるのかを知るためのパイロット版とも受け取ることができます。ターゲットが小中学生なので、入試広報としての価値を測るには、やや情報が足りません。とはいえ、研究者を巻き込んで学内でそこそこクオリティの高い動画を量産するというのが長期的にできるものなのか、やれるとしたらどのくらいの更新頻度になるのか、社会はこういう表現をどう受け止めるのか、動画数が増えたらどんな活用ができるのかなど、知っておきたいことが、この取り組みを通してたくさん知ることができそうです。それに、これまでにない表現手法で学問の魅力を社会に発信するというのは、個人的にすごく好きなことでもあります。大学の情報発信に関わるものとして、いち視聴者として、ぜひこの動画企画は長く続いて欲しいものです。
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