市場を巡る変化と不動産の最有効使用の遷移/アーク&カンパニー代表後藤克洋
経済、環境、政治、社会の変化を見据えて不動産の最有効使用を導き出すことは、不動産の価値を決める重要な原則だ。今回は「市場を巡る変化と不動産の最有効使用の遷移」と題し、ニューヨーク著名ホテル2例を題材に、LWホスピタリティアドバイザーズCEOダン・レッサー氏の業界誌ホテルズマガジンへの寄稿から解説してみよう。
最初に「ニューヨーク・マリオット・マーキス」。ブロードウェイに面して立地し、 1985年10月に開業した。72年、市長ジョン・リンゼイが、アトランタの著名な建築家兼不動産開発業者だったジョン・ポートマンに、犯罪多発地域と化したタイムズスクエア再生の一環として、巨大ホテルの設計を依頼したものだ。投資額4億ドル以上を掛けたこのホテルは、1900室の客室とスイート、7432㎡の会議・宴会スペース、そしてマーキスシアターを擁し、市の商業ルネッサンスの出発点となった。
しかしこの内側を志向する空間づくりを、ニューヨーク・タイムズは、タイムズスクエアにはびこるいかがわしい現実に背を向けた「エドセル・イン・タイムズ・スクエア?」と酷評(エドセルは廃車ブランド。当時売れない製品を含意)。とは言え理には適っていた。
ヴォルネード・リアルティ・トラスト(VNO)が登場したのは2012年。ホテルの小売スペースを20年賃借、拡張再開発に合意した。VNOは新たに小売店スペースを地下・地上含め4160㎡に拡張し、ブロードウェイの活気を取り込むためガラスファサードを設置。約1億4000万ドルを投資した。最有効使用は、タイムズスクエアの賑わいと活気を最大限取り込む外側に志向する空間づくりというわけだ。
もう一方の事例は「ホテルペンシルベニア」。マディソンスクエアガーデンの向かい。所有者のVNOは、最有効使用に基づき07年、メリルリンチ&COをキーテナントとする新オフィスビル、15ペンプラザ開発に向け解体を発表した。ところが折からの金融危機がメリルリンチ破綻、バンク・オブ・アメリカへ売却の事態を招き同計画は完全消滅した。VNOが再びこの一等地再開発を決めたのは20年。同年4月に同ホテルを閉鎖。23年10月に解体が完了した。
VNOの新計画は、高さ365m56階建て25万1000㎡のオフィス床を供する超高層商業ビル開発。しかし、オフィス勤務のパラダイムシフト、金利高及びタイトな資本市場などが開発を一時停止させている。最終的なオフィススペースは?多目的開発に軸足を移すのか?変化を見据えた最有効使用とは?今後の展開が興味深いところだ。
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