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『元彼の遺言状』(新川帆立)

だいぶ前に読んだコレですが、改めて読み直したら、ホテルに関する記述があったので、そこだけ取り上げてみます。2ヵ所だけですし、特にネタバレもないので、ご安心ください。

差し出された指輪を見て、私は思わず天をあおいだ。
信夫と私は、東京ステーションホテルのフレンチレストランで、フルコースのデザートを食べ終わったところだった。

『元彼の遺言状』P6

東京ステーションホテルのフレンチということで、ブランルージュである。

https://www.tokyostationhotel.jp/restaurants/blancrouge/

周辺の記述から、日曜夜にディナーコースを食べた、ということが読み取れる。参考までにお値段はこんな感じ。

7月1日~8月16日
ランチコース  10,000円 / 16,000円 / 23,000円
ディナーコース 月-木10,000円 金土日祝12,000円 / 16,000円 / 23,000円

8月17日~11月15日
ランチコース  10,000円 / 16,000円 / 25,000円
ディナーコース 月-木10,000円 金土日祝12,000円 / 16,000円 / 25,000円

https://www.tokyostationhotel.jp/restaurants/blancrouge/

主人公がプロポーズされる場面なので一番高いコースだろう。よって、23,000円もしくは25,000円。プロポーズをする側にとっては勝負レストランということになるが、そこで東京ステーションホテルを選ぶ辺り、とても真面目な男性であることが伺える。「伝統のクラシックホテル」、「真っ白な内装」、「(王道である)フレンチのフルコース」といった要素がそれを裏付け、強化する。理系の研究者らしいと言えば、らしいのだが、これは偏見か。

次の場面。

私たちはマンダリンオリエンタル東京のラウンジ・バーで落ち合った。
篠田は誰かの結婚式の帰りだったらしく、やたらと艶のあるスーツを着て、引き出物の大きな袋を持っていた。もともと背の低い男だったが、数年ぶりに会っても、やはり当然ながら、背は低かった。以前よりずっと腹が膨らんで、スーツの前ボタンがはち切れそうだ。

『元彼の遺言状』 P31

ドラマをご覧になられた方は、大泉洋が演じる篠田とはだいぶイメージが異なる記述に驚くかもしれないが、本を先に読んでいると逆に大泉洋に驚く。

さて、東京ステーションホテルとはだいぶテイストが異なり、エキゾチックな魅力に溢れるアジア系のラグジュアリーホテルであるマンダリンオリエンタル。と言っても、三井が本拠地の再開発に伴って誘致したホテルなので、大枠としてはもちろんちゃんとしている。そして、何行か後ろに出てくる篠田のバックグラウンドに関する記述ともリンクしている。

篠田の父は小さな貿易会社を営んでいた。篠田本人は遊学中という体の、ただの遊び人である。遊ぶといってもお坊ちゃんのことだから、ゴルフをしたりヨットをしたり、堅苦しくて行儀のいい遊びしかしない。

『元彼の遺言状』 P31-32

ちなみに、緩やかにしか空間が区切られていない、ある種雑多な印象があるマンダリンバーは男同士で行く場所のイメージが強いので、男性的な剣持麗子が男性である篠田と会う場所としてはとてもしっくりくる。

いずれのホテル、レストランもシーンやキャラクターに合わせた妥当なチョイスで、新川帆立という人のセンスをこんなところでも感じることができた一方、弁護士でプロ雀士で作家な上にセンスもある帆立が憎い。

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