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生きづらい人にこそ冬の瀬戸内をオススメする理由②生口島
尾道の海を眺めていたら
海の向こう側を見たくなり
しまなみ海道のうちのひとつ「生口島」へ渡ると決めた。
日本で美しい海?
そんなの、せいぜい沖縄ぐらいでしょ?
勝手にそう決めつけていた事を激しく後悔する。
生口島は、それほどにも美しかった。
そして
この小さな島でも、閑散期のメリットをしっかり享受した。
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まずは貸自転車屋へ行こうと
港でたむろするオジイ軍団に場所を訊ねてみた。
「ワシの自転車乗ってけ。ほら、これ乗ってけ。
戻ったら適当にココ置いといてくれたらええけん」
とボス格のオジイが
錆びた自転車を指して豪傑に笑う。
都会が失った優しさ、ここには健在だった。
島に着いて5分。
どうしよう。
もうこの島が好きだ。
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飛び込みたくなるほど透き通った海。
包み込むように柔らかい、冬の太陽。
まばゆくきらめく水面。
両手に連なる瀬戸内の島々に、それらを架ける橋。
全てがあるべき場所におさまって、神々しい程に美しい。
景色を目に焼き付けながら、海沿いを走った。
ただひたすら、広大な絶景を独り占めしている。
「無条件に楽しい!」
ペダルを漕いでるのか、スキップしているのか分からないや。
この感覚もまた、大人になってから久しかった。
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観光客は、ほぼいない。
たまに作業トラックやサイクリストとすれ違うだけ。
レモン農家のおじさんが、ラジオを響かせながら収穫中だった。
ここにも、日常がある。
小さな島の冬こそ、本来の島の姿を映し出していた。
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いつのまにか、ずっとひとり笑ってた!
いつのまにか、鼻歌うたってた!
既製服なんかじゃない。
これは私自身だ。
「久しぶり!私」
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私は、開放された。
凝り固まっていた血が、全身に巡り始めるように。
なぜか、遊ぶことに全力だった小学生時代を思い出した。
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いつまでも微睡んでいたかった。
でもそういう訳にはいかない。
私は、私の日常を手に入れるために。
既製服ではない日常を。
かならずまた、瀬戸内の島々を訪れよう。
今度は
大好きになった町や島だけでなく
土地の人々とも触れあいたいと思う。