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まちづくりにファイナンスを活かす① ~銀行とのおつきあい~

「では、ここに渡邉社長個人の印鑑をお願いしますね。」、「え、なんで???」とそのとき思ったのですが、目の前の入行1年目の銀行員(ラフな格好して現れたら、さわやかな大学生にしか見えないだろう)に”社長”といわれると、なんとも質問することが気恥ずかしくて、分かった風をして印鑑を押していました。

起業(若しくは承継)した経験のある大人ならば、誰しもが通る銀行とのおつきあい。私の場合は、自治体による制度融資がきっかけでした。

起業して、会社をつくってみたのは良いけれど、当初想定したクライアントはクライアントとまでは話が進まず(これもよくある話。。。)、自分に給与を払うとどんどん資本金(という名の会社内貯金)が減っていく。アタマのなかは「こんなはずじゃなかったのに、、、」という後悔と、でも「借金って怖いよなー」という漠然とした不安。そして会社が(というか人生が)終わることの恐怖。

そんなとき、藁にもすがる(当時はほんとにそんな感じでした)思いでお伺いした台東区の中小企業振興センター(https://www.city.taito.lg.jp/bunka_kanko/jigyoukeiei/yusijoseikin/kinyukeieishien/yushiseido/tokushuseido/201510_kai.html)、これが今思うと非常に秀逸な仕組みでした。税理士さんや司法書士さん(制度上は商工相談員という名称)に事業計画を見てもらって添削してもらうと、実質無利子で資本金の3倍まで資金借り入れができるのです。(利払は毎月行うのですが、年末に書類を出すと、3月頃に利子分が還付されてきます。)

「そうねー、まぁしばらくは収入ないだろうから、返済は来年2月ぐらいからにしたほうが良いよ。」とか、「ある程度見込みがある収入があったらできるだけ具体的に書いてみて。」とか、ご指示の通りに(非常に簡単な)フォーマットを埋めると、台東区の融資制度にパスした書類をくれます。この制度、とくにこれという金融機関の指定はないので、私は買い物のついでに「三井住友銀行」に行きました。

何も知らない、というのはある意味武器だなぁと思うのですが、政策金融公庫も信金や地元地銀もすっ飛ばして、いきなり大手都銀の雄へ。たまたまだったのですが門前払いされることもなく、たまたま相対してくれた中間管理職的なおじさんに事業内容をお話ししたところ、妙に面白がってくれ、結果的には非常にあっさりと融資が下りてしまいました。。。

ただ、ここで冒頭の話になります。今だったら当たり前に突っ込んでいくのですが、創業時って保証人として代表者が個人で連帯保証するのが”ある程度…”マストなのですね。その前段階で、「保証協会」なる人がわざわざ我が家(当時の本店所在地は我が家でした。。。)までお越しになって、「台東区、いい街ですね。」みたいは毒にも薬にもならぬ会話をしながら、協会さんが保証されると聞いていたので、これは正直驚きでした。(逆に言えば、そんなことを知らなくても起業できてしまうのです。)

この保証制度、2020年4月の民法改正によって第三者に対する連帯保証に関してはかなり制限がかかるようになりました。代表者保証についても、一般社団法人日本銀行協会が「経営者保証ガイドライン」(https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/)を定めており、代表者保証をマストとしない要件を明確に定めています。(興味ある方は、少し長いですが、是非ご一読されることを勧めます。)三井住友銀行の金銭消費貸借契約書にも当然ながらこの条項は記載されていて、先程の若い行員は後でこの部分についても丁寧に説明してくれました。

会社と個人は人格が異なるもの、会社の経営責任は出資額の範囲まで。と、モノの教科書には書いてあるのですが、この代表者保証によって実態は代表者個人に会社が紐づいてしまう状況にあります。中小企業側としても、代表者保証によって資金が融通されるのであれば、めんどくさい規程や資金管理をするよりも楽、という会社もあるかなと思うので、一概には否定しません。ただ、成長過程において必ず現れる「では、会社はだれのもの?」議論において、代表者が単に経営にコミットするのではなく、会社そのものにコミットせざるを得ない制度は、どこか歪んでいる気がします。

とはいえ、これまでは銀行融資による資金調達(社会科で習った間接金融ですね。)がメジャーだったわけですが、ベンチャーキャピタルや事業会社による出資、さらには投資型クラウドファンディングなどの拡充によって、資金を直接マーケットから調達する仕組みも増えてきました。当然、投資家は高い利回りと成功を期待するので、銀行のようなおつきあいとはちょっと異なる世界がそこにはあります。いざというときに、契約書にないおつきあい(時にバッサリと切られることもありますが)を仄かに期待させる銀行、他方で、成長のエンジンとして将来の事業性に賭けて資金投下するベンチャーキャピタルをはじめとする投資家のみなさん。起業家はあらゆる資金調達手段をとることができる世の中になってきました。

ここでは、私自身の体験を踏まえながら、まちづくりに必要となる資金調達の考え方について少しまとめていけたらと思っています。



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