まちづくりにファイナンスを活かす③~事業計画をつくろう!~
「それでは、次回お打ち合わせまでに会社様の定款と登記簿謄本、それと事業計画の作成をお願いできますでしょうか? えぇと、フォーマットは任意で構いませんので。」
みなさまが(いくつかの適切な段取りを踏んで)融資を受けるために銀行へいくと、概ねこんな回答がやってくると思います。多くの人は、「はて、事業計画って何だろう?、任意のフォーマットと言われましても、、、」と面食らうことになるんじゃないかなと思います。そうですね、学校では残念ながら事業計画の作り方は教えてくれないのです。そこで、当方の個人的な印象も含めて、事業計画の作り方を簡単にアドバイスしたいなと思います。
事業計画は「定量的」と「定性的」の二つからなっている。
事業計画においては、あなたがこんなことをしたい!、こんなものを開発して、これを売っていくことで利益が出るんです、これは先導的で他にはまねのできないものなんです、、、といった作文”だけ”では融資してくれません。
売上と費用の具体的な数字が必要です。まぁ、当たり前ですね。ただ、エクセルシートの羅列で良いのかというと、それもダメです。ちょっと抽象的になるのですが「数字に意味を持たせる」ということが非常に重要だなぁと感じています。
例えば、あなたが古民家を改修して宿泊施設として収益化する事業を検討したとします。このとき、売上を要素分解すると「一泊当たりの設定料金」×「想定宿泊数(稼働率)」ですね。
売上を上げるには、「一泊料金を上げる」、もしくは「稼働率を伸ばす」、ですが、「一泊料金」については周辺の競合物件よりも高い設定にはしづらいですから、おのずと上限値はある程度決まってきます。稼働率についても「観光庁 宿泊旅行統計調査」である程度、地域の平均値は把握できますので、これと大きく異なるような数字を入れると、強気/弱気がはっきりしてしまいますね。一旦は平均値を入れておきつつ、季節変動も考慮して月別に展開していきます。
費用についても同様です。単に人件費20万円と記載しても、数字を見る側は想像がつきません。宿泊施設の場合、チェックイン/アウト/予約管理を行うカスタマーサービスと清掃や小修繕などのチェックを行うファリシティチームに大別されます。
それぞれの(パートならば)想定時給と拘束時間、社会保険料が発生する場合はざっくり20%程度を別途設けるなどの根拠が必要になります。常駐に近いのか、季節によって雇用形態を分けるのか?、どんな人を雇用するイメージ(主婦、学生、リタイア層)も必要です。 やっかいなのは水光熱費。 これは各電力会社や水道局、ガス会社のwebを見ながら「基本料金」と「従量料金」を確認、従量料金については稼働率と案分しながら、使用料を類推していきます。変動要素が大きいので若干余裕を入れておくのも良いと思います。
とまぁ、あなたが入れている数字にきちんと根拠を持たせていく、誰が見ても数字に意味があるなぁと思わせられる形にすることが必要です。
事業計画の将来シナリオ、実は提出先で求めるものが全然違う!
で、現況恐らくこうなりそう、という事業計画はコツコツやれば割と誰でも作れます。問題なのは「将来のシナリオ」なんですね。私の場合、鞆まちづくり会社を設立した時は、宿泊施設の売り上げが主な収益源となっていましたので、この宿泊施設の伸び率設定に非常に頭を使いました。当初稼働率を15%程度と控えめにおいて、だんだんと上昇していくシナリオにしてみましたが、自分でも「どうやって稼働率上げるんだろ???」と疑問に感じてしまったり。
「数字が上がっていく蓋然性が見えないですね・・・。」
とは、多くのケースで突っ込まれる指摘です。私も言われました。はっきり言ってしまうと、未来のことは正直誰もわからないですよね。なので、私の場合は「稼働率を上げるためにOTAサイト(宿泊予約サイト)を複数設定します。」、「少しでも評価を上げるために清掃や顧客管理を徹底させます。」、「今はないですが体験型ツーリズムを導入します。」、「平日と休日の価格設定を弾力的に変更します。」といった具体的な稼働率向上施策をお伝えしつつ、”あまり無理をしない事業計画”にシフトしていきました。
そうなのです、銀行さんは”無理をしない”ことに好感を持ってくれる人たちですので、この”無理をしない”の塩梅が非常に重要です。
他方、同じ事業計画を投資家(ベンチャーキャピタルや事業会社で出資してくれそうな人)に持っていくと、全く違うコメントが返ってきます。
「この売上の上がり方だと事業がスケールする印象が全然持てないですね・・・。」
これもよく言われる指摘です。私も言われたことがあります。そう、投資家は将来の成長性に期待して”投資”をする人たちです。なので、10年たっても稼働は30%です、、、だと投資妙味を感じてくれません。5年で売上100億です、ワールドワイドに古民家買いまくります、古民家ホテルの世界一を目指します、みたいなのが大好きです(ちょっと誇張しました、、、)。ですので、できるだけ事業に対するパッションを積極的な数字に落とし込んでいくことが必要です。あなたのオリジナルな古民家ホテルによって地域はどう変わっていくのか?、単なるホテルとの差別化によって宿泊費は倍とれるとか、満室稼働するとか、そういったオリジナリティが非常に重要になります。
あいにく、鞆まちづくり会社ではまだエクイティ投資までは実行できていませんが、シナリオ設定として「瀬戸内地域を代表する会社になること」、そして「古民家活用を通じて地域を元気によみがえらせていく」、そんなことを目標に考えています。
事業計画、、、というと手が止まることがあると思います。ただ、まずは起業を思い描いた時の「自分のパッション」を、全力で羅列してみてください。体裁とか一切気にしないで。ツールとかも関係ないです。その文言の一つ一つを研ぎ澄まさせて事業の骨格をつくることが第一歩かなと。
その次の段階で、その事業の骨格ひとつひとつに細かな設定数字を置いていく作業が待っています。これもほんと骨が折れるのですが、自分の数字に自信を持たせるための重要作業です。掘れるだけ掘って設定してみましょう。
そして一番重要なのが、将来シナリオ。
先程お伝えしたように、私はお金を出してくれる相手先によってシナリオを変えて良いと思っています。
銀行さんの目的は、(どんなにマズイ状況になっても)きちんと期日通りに”お金を返してくれるか”、投資家は”どれだけ規模を拡大して成長してくれるか、社会貢献をしてくれるか”、というように全く異なっていますから。
そのうえで、自分の中でぶれない事業計画があることが必須かなと思います。これが、投資家のマインドと(完全でなくても)合致していると、投資家としては非常に受け入れやすいのではなかと思うのです。