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まちづくりにファイナンスを活かす⑨~補助金の正しい使い方~

気が付いたら2022年も間もなく3カ月が終わろうとしているところ、週刊のつもりが年刊になっていました。改めてnoteによる発信を定期化していくべく、今年度(2021年度)の悪戦苦闘について少しまとめていきたいと思います。

補助金申請をしてみた

木下一派(注:木下斉さんを敬愛する一派、補助金の闇を著作や論考通じて感じている人たち、そして補助金に依らない地域事業を実践している)を自称する私にとって、自社事業を展開するにあたって補助金を利用することはほとんど考えていませんでした。事業を広げる財源は融資+投資、シンプルに考えていたのには、ほかにも大きな理由があります。
当方が事業展開する福山市鞆の浦は、非常にセンシティブな地域でもあります。港湾の埋め立て架橋を契機とする行政訴訟は、非常に稀なケースですが高裁での和解勧告という自治体側の実質敗訴という形で終わりました。
そんなこともあり、自治体側としては地域への関与の仕方が難しいエリアとなり、基礎自治体が申請者となる補助金を得ることは難しい環境にあります。
そんななか、2021年度に観光庁が「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」を新設しました。この試みの新しいところは、補助金の申請対象者が自治体だけではなく、民間事業者自体であったことです。

民間事業者が単体で補助申請する制度としては、例えば経済産業省による事業再構築補助金などもありますが、地域内の複数自治体がまとまってあたかもミニ自治体のように申請を出せる(しかも、組織自体を設立する必要はない)のは非常に実情に即していたこと、そして申請内容に建物改修(申請時点での旅館業取得がマストでなかったことも)が入っていたことも、古民家改修を行っていた鞆の浦の事業者メンバーにとっては使い勝手が良かったと言えると思います。そんなこともあり、2021年6月に本件補助申請をを行いました。

民間主体でも補助金を申請すること自体は可能

「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」の特色は、先程お伝えしたように民間事業者で補助金申請が行えるところにあります。民間事業者主体で申請できる補助金はなくはないものの、まちづくり系の補助制度については基本的に自治体やDMOを通じたものが多い印象です。
こうなると、まず自治体に手を上げてもらう必要が生じます。もちろん、特に広域自治体の場合は、特定エリアだけに重点投資するのは理由が必要となるので、意欲だけではなかなか自治体による申請まで持ち込むことは難しいです。地域内で色々とセンシティブな課題がある場合はなおさらだと思います。
となると補助金は意欲ある民間事業者発意で申請出来たほうがベターではないか、と思うところですが、そうはいかない事情が国側にもありそうです。やはり地域の均衡ある配分、そして基礎自治体への配慮(補助を受ける組織は基礎自治体にとっても望ましい形であること…)もあると思われます。
今回の補助制度も、基礎自治体への通知や同意という文言があり、何かしらのコミュニケーションを申請前段階で取っておくことが必要になっていました。
このあたり、観光協会などに接点を持つ事業者がいることが補助制度活用の前提となる点は否めません。

申請の先がとても面倒、終わらぬ事務局との闘い

おかげさまで地域として無事採択されました。2021年8月頃だったかなと思います。しかし、ここからのほうが申請までの準備作業よりも何倍も大変でした(今思えば…)
申請後、速やかに個別事業(例えば建物改修や各イベント、モニターツアーなど)の申請に移るわけなのですが、この申請資料の作成及びアップが非常に面倒なのです。要綱の各項目の細かいところを読み込んでみても、採択対象外となる項目を全て網羅的に説明しているわけではないので、都度確認する必要が生じます。
これが、なぜか電話だけ。。。
最終的にはメール対応も可能となりましたが、最初のうちは電話対応のみ。しかも受付された方が全員網羅的に分かっているわけではないので、いつかかってくるかわからないコールバックをひたすら待つという。。

電話自体も非常につながりづらく、かなりのタイムロスを受けることになりました。
この補助金がある種独特だったのは、事務局自体を外注化していた点です。これはこれで悪くないと思うのですが、結果的に事務局の窓口と審査チームを分けてしまったせいで、申請者側からするとある種の不信感が生まれてしまったのは否めないと思います。
「いつになったら申請が終わるのか?」、「何故不備資料がこれなのか?」、「スケジュールはどうなっているのか?」、審査チーム側の言い分はいろいろとあるんだろうと思いますし、申請側の不備が相当に多かったことは容易に想像できます。
が、結果的に個別補助申請のやり取りの過程で、それなりのチームがドロップしていったのはとても残念に思います。ともすれば性悪説になりがちな補助金審査が、結果として地域の成長の芽を摘んでしまうことはあるのかなと思った次第です。

補助金でできること、できないこと

補助金を活用して見えてきたことがあります。やはり、補助金はあくまで補助でしかないということです。補助金がなければ事業をやらなかった、というのは本末転倒だと感じています。何かをやりたい、その強い意志に少し寄り添うのが補助金であって、本来ならば補助金が無くてもやっているべきものであるはずです。
補助金を得ることで、事業のスタートダッシュが楽になるということはあると思います。借入金額を減らすことでCFが安定化する、事業初期における現金収支が好転しやすくなるといったメリットはやはり強いです。
ただ一方で、補助金を得ることで事業の幅が狭まることは理解しておくべきと思います。今回補助金に限らずですが、補助金を得た不動産の譲渡には一定の制限が掛かる、との記載があります。抵当権設定に対してもネガティブな回答があります。(もちろん、この部分については明文化されておらず、事務局も確定的な回答を避けている節があります)
物件の短期譲渡は避けるべきですし、用途外の利用についても基本的には行うべきではないでしょう。ただ、地域の実情を鑑みたときに、当初事業計画で考えた用途・使い方と実態が異なってくる可能性は大いにあり得ます。そのあたり、補助金利用してしまうと対応ができない点はよくよく考える必要があります。

補助金の先にあるもの

補助金は紐づき、とよく言われます。この目的、用法のためにというものであることのたとえですね。それが本当に地域の実情に合っているのか、そしてその可変性に耐えられる資金調達手法なのか、この面倒な資料作成と折衝が本当にコスト的にあっているのか、安易に選択するべき手法ではないと実感した一年でした。
他方、こういった制度を立案運用している中央官庁の人たちの思いというのも強く感じた次第です。要綱ひとつひとつに、政策立案者の志がつまっている、と感じています。
その思いというか、志が垣間見えるからこそ、申請者側はその思いに共感する場合に限って利用するべきものだと思います。そのバーターとして政策的な趣旨に合致するか、これでもというぐらい資料ワークに取り組む必要があるのだと考えています。

補助金の先にあるもの、それは真に地域が「求められる政策」に合致した地域づくりをしているか?という点にあるのだと思いますし、必ずしも政策と合致する必要がない、というかそれを目指すべきではないと考えるならば、補助金ではない資金調達手法を検討するべきなのだと感じています。

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