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自分には当たり前でも他人には当たり前ではありません。引き継ぎは虚心坦懐に。

新しく職に就いたり、部署異動になった際、前任者の方から業務を引き継ぐことは一般的です。通常、前任者はこれまでの業務内容をまとめた資料を後任者に渡し、「しばらくはこれを見ながら進めて、慣れてきたら自分のやり方に変えても構いません」といった形で説明されることが多いでしょう。これは、日本企業特有の丁寧で配慮のある仕事の進め方と言えるかもしれません。
しかしながら、現実に引き継ぎを受ける側が直面する状況は、必ずしも理想通りとは限りません。前任者が作成した資料が不十分であったり、あるいは、前任者が非常に忙しく、資料作成に十分な時間を割けなかったために、内容が概略的なものにとどまっているケースも少なくありません。このような状況下では、後任者は、前任者に直接質問したり、連絡を取ったりして、より詳細な情報を求める必要があります。
ところが、前任者の方の中には、「そんなことは常識だからわざわざ書かなかった」「あなたなら知っているはずだ」といったように、後任者が理解していることを前提に説明を省略してしまう方がいらっしゃいます。これは、決して悪意があるわけではなく、前任者にとっては当たり前のことでも、後任者にとっては全く新しい知識である可能性があることを十分に理解できていないために起こるケースが多いと思われます。
しかし、このような考え方は、後任者の業務遂行を大きく妨げる要因となり得ます。前任者にとっては当たり前のことでも、後任者にとっては全く初めてのことであり、そのギャップが原因で業務が滞ってしまうことは十分に考えられます。
大河ドラマ「光る君へ」でもお馴染み、平安時代の貴族、藤原実資卿の日記「小右記」は、この点について示唆深い教訓を与えてくれます。実資卿は、当時の貴族社会において当たり前のことまで、あえて詳細に日記に記録していました。これは、自分自身のための日記であり、決して人に見せることを目的としたものではありませんでした。にもかかわらず、実資卿は、当たり前のことを詳細に記録することで、後世の人々に平安時代の生活様式や社会状況を深く理解してもらうことを可能にしたのです。
同様に、業務を引き継ぐ際にも、前任者は、当たり前のことだと思っていても、後任者にとっては全く新しい知識である可能性を常に念頭に置き、詳細な説明を心掛けるべきです。「当たり前のこと」という観点を捨て、虚心坦懐に業務を引き継ぐ姿勢が求められます。

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